リスク
3【事業等のリスク】
(1)リスクマネジメント
① リスクの考え方
当社グループでは、リスクには目的に対して「好ましいもの」と「好ましくないもの」の両方があると捉え、事業及び組織における目的の達成に影響を及ぼし、価値の保護及び創造を不確かにする事象をリスクと定義しています。リスクマネジメントによって「好ましいもの」を最大化するよう目標及び施策などを見直し、「好ましくないもの」を最小化するようプロセスを点検し改善して「中期経営計画」の達成、さらに「2030年のありたい姿」や「長期ビジョン」の実現をより確実にしています。
② リスクマネジメント(RM)の体制・枠組
1999年に子会社である株式会社ジェー・シー・オーが起こした臨界事故を厳粛に受けとめ、リスクマネジメント方針及び重点施策の全社的取組など、リスクマネジメントの推進及び監視を行う機関として「リスクマネジメント分科会」を設置、社長を最高責任者として、当社グループを取り巻くリスク及びその変化に対応する体制(図1参照)を整えています。この体制によって運用される当社のリスクマネジメントは3つの枠組で構成され(図2参照)、経営RMにおいては、社長をはじめとする執行役員により議論され、成長戦略・事業戦略の遂行に伴う経営・事業リスクの中で特に重要なリスクを特定、対応方針及び責任部門を定め機関決定し、リスクマネジメント分科会が取組状況をモニタリングします。また拠点RMでは、主に産業事故、コンプライアンス違反、品質問題及び環境事故など、当社の経営基盤の安定を損なう個々の拠点に潜在する固有のリスクに拠点長が責任者となって取り組むことにしています。なお、社会的に影響が大きい産業事故や震災、感染症、海外有事などの緊急事態に対しては、全社危機管理体制で対処する枠組を整えています。
(2)事業等のリスク
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、投資家の判断に重要な影響を及ぼす可能性のあるリスクには以下のようなものがあります。なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末において当社グループが判断したものです。
① 資源開発・投資の難易度上昇
原料の安定確保に向けた鉱山開発・投資を行っていく中、新たに発見される鉱床の高地化・奥地化・低品位化などによって優良案件の権益獲得競争が激化するとともに、開発・参入コストは増大しています。これら鉱山投資の不確実性に起因する追加投資や採鉱コスト上昇の負担あるいは投資実行の断念が、当社グループの財政状態及び経営成績の悪化につながる可能性があります。
これらに対し当社グループは、将来の鉱山権益獲得のために各地の探鉱活動を継続するとともに、候補案件の情報収集と評価を進め、あわせて海外等のビジネスパートナーとの連携強化、業界内のプレゼンス向上を図ることで、開発・投資案件候補のパイプライン拡充に努めています。また長年にわたる探鉱経験及び鉱山評価ノウハウの蓄積に基づく慎重な採算性判断により厳選した投資を実行することで、開発の準備段階よりかかる不確実性リスクの軽減・回避に努めています。
② 開発の長期化
材料事業が対象とする市場では、顧客要求、商品寿命が急速に変化する一方で、新商品の開発や既存商品の改良が長期化し、資金や人材など、多くの経営資源の投入を要することがあります。また、他社が開発した新技術・商品により当社技術・商品がコスト等の面で競争優位性を喪失する可能性もあり、それが当社グループの財政状態及び経営成績へ影響を及ぼすことが考えられます。
当社グループでは、顧客との関係を深め、顧客及び市場ニーズを的確に把握し、それに基づく新商品開発を進めるために必要な営業及び開発体制を敷き、影響の軽減を図っています。また国の支援制度の活用や社外との共同開発、産学連携等を通じて、開発を加速させていきます。
③ 人的資本経営の取組遅れ
当社グループは安定操業の継続と新規プロジェクトへの参入などの事業拡大を進めていくために必要な人材の確保・育成・活用に取り組んでいます。一方で国内における生産年齢人口の減少、若年層の就労感の変化に伴う採用競争の激化、定年退職の増加による労働力の不足への対応が急務です。
このような状況に対し当社グループでは、DXなどの導入によって合理化・省力化を進め労働時間の低減を進めるとともに、多様な人材が活躍できる組織であるために、経営戦略と連動した人事戦略の展開、従業員一人ひとりの自律的な成長やキャリア形成を促進する人材育成体系・制度の構築、多様な人材が働きやすい社内環境の整備に取り組んでいます。また広報・ブランディング活動等による新卒・キャリアの採用競争力強化、社員のライフスタイルに合った働き方推進やDE&Iの理解・浸透や健康経営の推進にも積極的に取り組んでいます。
④ 気候変動への社会的責任
気候変動や地球温暖化の原因とされるGHG排出量の削減を目的とした取組が世界的に進められ、環境対策に必要な設備投資の実施やカーボンフットプリントの削減、炭素税などの負担を排出責任者として果たしていくことが求められています。これにより、企業としての社会的責任が今まで以上に高まることが考えられます。
当社グループは2050年のGHG排出量ネットゼロに向けて、2030年度に向けた削減目標と、2050年に向けた取り組みのロードマップを策定しています。当社はこのロードマップに沿って工場の省エネ・高効率化、LNG・木質バイオマス燃料への転換、再エネ電力の利用拡大などによりGHG排出量の削減を進めるとともに、カーボンニュートラル社会の実現に資する製品の研究開発にも取り組んでいます。
⑤ 製造物責任及び請求訴訟
製造・販売する製品・サービスにおいて、厳しい品質管理の下、顧客からの要求事項を満足する品質の確保に努めています。しかしながら、例えば車載製品においては、その欠陥によって搭載されている最終商品のリコールや、それに基づく当社への損害賠償の発生、また製造物賠償責任保険でカバーできない賠償額の負担を求められることで、当社の信頼失墜及び巨額の財務負担が生じる可能性があります。
当社グループでは顧客満足を得られる製品・サービスを提供するため、国際標準であるISO9001に基づく品質マネジメントシステム(QMS)の運用において、当社グループが求めるQMSのあるべき姿「SMM品質標準」に則り、品質の改善に取り組んでいます。また、当社グループの品質保証の推進及び品質管理の改善を図るため、品質分科会を運営し、品質方針・全社品質目標を定めて、施策の審議と実施状況の確認を行っています。このような組織・仕組のもとで、当社グループのQMSを有効に機能させ、更なる品質の向上やトレーサビリティの強化に努めています。
⑥ 政治・社会情勢の変化
当社グループは、製品の製造拠点及び販売の市場を海外に求め、国際的に事業を展開しています。また、銅精鉱やニッケルマットなどの主要原材料や資機材の一部については海外からの調達を行っており、これらの国々における、政情不安、紛争、法令及び規制の変化あるいは資源ナショナリズムの高まりといった政治的、社会的情勢の変化が当社のサプライチェーン、ひいては事業継続に影響を与える可能性があります。
当社グループは、これらのリスクに対応するために、事業部門及び海外拠点あるいは海外ビジネスパートナーの協力も得ながら、政治的・社会的情勢の変化を常にモニタリングして、変化に応じて適宜対策を講じています。
⑦ 経済情勢の変化
a. 非鉄金属価格の変動
銅、ニッケル、金などの非鉄金属の価格は、ロンドン金属取引所(LME:London Metal Exchange)、その他の国際市場において決定されます(以下、それらの市場において決定された価格を、LME相場等という)。LME相場等は、国際的な需給バランス、為替の状況、政治の状況、投機的取引、さらには代替素材の競争力などの影響を受けて変動し、それらの影響による変動の状況及び期間しだいで、当社グループの経営成績にプラスもしくはマイナスの影響を及ぼす可能性があります。
当社グループでは、資源事業及び製錬事業のコスト低減を図るとともに、非鉄金属価格の変動の影響を比較的受けにくい材料事業の収益安定化をめざし、また必要に応じて、非鉄金属価格のリスクヘッジを目的とした商品先物取引、商品オプション取引を利用しています。
b. 為替レートの変動
銅精鉱、ニッケルマットなどの輸入原料だけでなく、非鉄金属地金の国内価格も米ドル建てのLME相場等を基準に決定されることから、当社が製錬事業から得る製錬マージンは実質的に米ドル建てであり、海外への鉱山投資や製品等の輸出から得られる収入も外国通貨建てになります。したがって、為替レートの変動の状況及び期間しだいで、当社グループの経営成績にプラスもしくはマイナスの影響を及ぼす可能性があります。
当社グループは、為替レートの変動に対し、必要に応じて為替予約取引、通貨オプション取引、外国通貨建て口座の活用などにより対応しています。
2024年度の業績予想において、非鉄金属価格及び為替レートの変動が連結税引前利益に与える影響は、以下のとおり試算しております。
変動要素 |
変動幅 |
連結税引前利益に与える影響 |
銅 |
±100$/t |
34億円 |
ニッケル |
±10¢/lb |
15億円 |
金 |
±10$/TOZ |
3億円 |
為替レート(米ドル) |
±1円/$ |
11億円 |
(注)上記の為替レート変動の影響額は国内の製錬収入及び海外換算為替差の合計となります。
⑧ 拠点における事故・災害
当社グループが展開する国内外の製造拠点において、設備・計器の故障や誤操作、事故による破損などで有害物質の漏洩や火災・爆発のリスクがあります。また、国内各地に保有する休廃止鉱山では集中豪雨や地震などによる鉱害リスクの可能性があります。
このようなリスクに対し当社グループでは、設備・計器の定期点検と予備品の確保、管理手順書の整備・更新と定期教育、堆積場の保全及び耐震補強工事や抗排水の水質管理を徹底しています。さらに、それらの取組状況をチェックするための日常的なパトロールに加え、本社の専門部門による定期的な巡視と是正指導も実施しています。
なお、各拠点においては、日常的なリスクマネジメント活動として、これらのリスクの前提となる環境や条件、例えば事業環境、操業環境、人、装置、作業手順、管理基準などに変化や変更があったとき、または毎年9月に全社一斉に実施するリスク認識強化月間で対策内容を見直し、リスクの低減、事故・災害の未然防止に取り組んでいます。
⑨ 大規模自然災害や新型強毒性感染症、海外緊急事態
当社グループの製造拠点は、顧客との関係、原料調達上の有利性、グループ内関連事業との連携、経営資源の有効活用などの点を考慮し立地していますが、それらの地域で大規模な地震や風水害等により生産設備等が損壊する事態、海外においては政情不安による治安悪化、誘拐やテロ等により社員の身体生命の安全にかかわる事態、そしてそのような事態によって操業停止や生産性が大幅に低下する可能性があります。また今後新たな感染症の発生・流行により、従業員の感染、急激な需要収縮やサプライチェーンの途絶による操業停止など、当社グループの業績に影響が及ぶ可能性があります。
これら激甚化した自然災害に対し当社グループでは、建屋の耐震補強や津波発生時における浸水対策工事、排水処理能力の増強、貯水タンク増設等を進め、二次的な影響を抑えるための体制の整備として可能かつ妥当な範囲で保険を付し、また、感染症、緊急事態も含めた操業やサプライチェーンへの影響を軽減するため原料などの代替調達先の確保などにも取り組み、生産縮小・停止による供給障害を極小化させるBCP(Business Continuity Plan)を整えています。
また、拠点単独で対応できないような事態に備えるために、常設機関として危機管理担当役員を委員長とする危機管理委員会を設け、危機に関する情報共有、事前対策の策定と改善、例えば海外におけるテロ・暴動・誘拐等を想定した訓練を実施し、危機管理機能の維持及び強化に取り組んでいます。
⑩ サイバーセキュリティ
経営基盤の一部であるITにおいて、内部者の故意、過失による機密情報の流失のほか、テレワーク・クラウド利用等の増加といった環境変化により、第3者による意図的又は無差別な情報システムへの侵入・攻撃などのサイバーセキュリティリスクが増加・増大しており、それらの弊害により、工場の操業や製品品質への影響、さらには社会的な影響が大きい産業事故の発生、またステークホルダーの当社に対する信用が失われる可能性があります。
これらに対し、当社グループでは、従業員に対する情報セキュリティ教育のほか、利用環境を問わず社内外のシステムを安全に利用できる仕組み(ゼロトラストネットワーク)や高度なセキュリティ機能を持つクラウドサービスへの移行に取り組んでいます。
配当政策
3【配当政策】
当社は、利益配分につきましては、業績及び配当性向、将来の事業展開、財務体質の健全性などを総合的に勘案することにより剰余金の配当と内部留保のバランスを決定してまいります。毎事業年度における配当の回数については、事業特性と事業戦略の状況に応じて行うことを基本とし、資源・製錬事業からの利益が主要な原資であること及び現在は大型投資による成長戦略を進めていることから、通期業績又は第2四半期累計期間業績に基づく利益配分を中心に考えております。なお、当社は会社法第454条第5項に規定する中間配当をすることができる旨を定款に定めております。期末配当は定時株主総会の決議により、中間配当は取締役会の決議により決定します。
当社は「21中計」において、連結自己資本比率50%超を維持することを財務戦略の基本とし、配当方針として「連結配当性向原則35%以上」を掲げていますが、当社グループの業績は、事業の特性上、非鉄金属価格や為替相場の変動等による影響を受けることから、連結配当性向を原則とした剰余金の配当額は大きく変動します。資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応の一環として、相場等の要因で当社グループの業績が悪化した場合の配当金への影響を緩和することを目的として、2024年3月期の期末配当よりDOE(連結株主資本配当率)1.5%を下限指標として追加し、配当方針を「剰余金の配当は、原則連結配当性向35%以上とし、下限指標はDOE 1.5%とする」としております。
当事業年度の期末配当につきましては、上記の方針(下限指標として追加したDOE 1.5%含む)を踏まえて1株当たり63円とし、中間配当と合わせた1株当たり年間配当金は98円といたしました。その結果、当事業年度の株主還元の指標である連結配当性向は、45.9%となりました。
第99期の剰余金の配当は以下のとおりであります。
決議年月日 |
配当金の総額(百万円) |
1株当たり配当額(円) |
|
2023年11月8日 |
取締役会決議 |
9,617 |
35 |
2024年6月26日 |
定時株主総会決議 |
17,310 |
63 |