リスク
3 【事業等のリスク】
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況に関する事項のうち、経営者が当社グループの財政状態、経営成績、キャッシュ・フローの状況及び事業運営に特に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりであります。
当社グループでは、「リスクマネジメント基本規程」に基づき、代表取締役社長を議長とする「リスクマネジメント会議」を設置し、グループ全体にわたるリスクの洗い出しと評価、連絡・報告体制の整備、対応策の検討等を実施し、これら主要なリスク発生の回避及び発生時の迅速かつ適切な対応に向け、全社的なリスクマネジメント体制を構築しております。
なお、文中における将来に関する事項は当社グループが当連結会計年度末現在において判断したものであります。
(1) 映画、アニメ、演劇公演等に係る事業の不確実性に基づくリスク
当社グループの以下の事業において、作品によっては十分な観客動員を果たせないリスク、作品の製作遅延や公開延期、公演中止等のリスクが存在します。
・ 映画事業:公開作品によっては興行収入が想定を下回るリスク。また、出演者・スタッフ等のトラブルや撮影時の事故等による公開予定作品の製作遅延や公開延期・中止等のリスク。
・ アニメ事業:出資作品によっては興行収入や配信等の各種利用料が想定を下回るリスク。また、声優・スタッフ等のトラブル等により製作遅延や公開延期、放映・配信の中止等のリスク。さらには、作品内容や表現等によって海外での利用に支障が発生し、十分な収入が得られないリスク。
・ 演劇事業:新作公演等の作品によっては十分な観客動員を果たせないリスク。また、制作スケジュールの遅延や俳優の健康上の理由・トラブル等により出演が不可能になり、公演が延期・中止となるリスク。
これらのリスクが顕在化する可能性は、映画事業、アニメ事業、演劇事業が不確実性を本質的な事業特性とする限り、一定程度、常に存在すると言えます。
これらのリスクが顕在化した場合は、営業収入、営業利益が減少するとともに、製作投資の回収可能性の低下による棚卸資産の評価減等、当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に影響を与える可能性があります。
これらのリスクへの対応策は、常に幅広い種類の良質なコンテンツの獲得に努め、映画事業・演劇事業においては、年間を通じてバランスの取れたラインナップを編成してボラティリティの高い興行リスクを軽減しております。また、コンテンツの制作段階におけるトラブルの発生や、制作スケジュールの遅延を防止するため作品ごとの管理を徹底するとともに、万が一の場合には、速やかな代替策や対応策の実施を検討してまいります。
(2) 物価、人件費等の高騰による収益構造悪化のリスク
当社グループの以下の事業において、エネルギー費・原材料費などを含む物価や人件費の高騰といった要因がもたらす収益構造悪化のリスクが存在します。
・ 映画事業:物価・人件費の高騰による全国各地に保有する映画館のランニングコスト増、及び新規出店に伴う出店費といったコスト増に伴う収益構造悪化のリスク。
・ 演劇事業:直営劇場として保有する帝国劇場・シアタークリエに係るランニングコスト増による収益構造悪化のリスク。
・ 不動産事業:全国各地に保有する不動産物件に係るエネルギーコストの高騰による収益構造悪化のリスク。
これらのリスクは、地政学上のリスク発生も含めた世界経済、社会環境の変化が発生要因であるためにコントロールが難しく、常にリスクとして存在します。
これらのリスクが顕在化した場合は、営業収入、営業利益が減少するとともに、設備投資の回収可能性の低下による固定資産の減損等、当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があります。
これらのリスクに対しては、可能な限り適切な方法で価格転嫁して収入の増加に努めるとともに、一層の運営効率化とコスト節減に努めリスクの低減を図ります。
(3) 自然災害及び事故、火災等の発生によるリスク
当社グループの以下の事業において、不特定多数のお客様が来場される事業場における自然災害(大規模な地震・風水害など)や事故、火災等の発生により事業活動の継続に支障をきたすリスクが存在します。
・ 映画事業:全国各地に保有する映画館での自然災害や事故、火災等の発生リスク。
・ 演劇事業:直営劇場として保有する帝国劇場・シアタークリエ及び直営劇場以外での当社主催公演時の自然災害や事故、火災等の発生リスク。
・ 不動産事業:全国各地に保有する不動産物件に入居する商業・オフィステナント等に係る自然災害や事故、火災等の発生リスク。
これらのリスクが顕在化する可能性については、自然災害については近年の気候変動による風水害の激甚化、度重なる地震の発生等の傾向から見て、顕在化する可能性が高まりつつあると考えられます。また、事故、火災の発生に関しては、長年にわたり各種予防策を徹底してきたことにより、昭和33年の東京宝塚劇場での死者3名を出した火災以降、当社グループの事業場において重大事故の発生に至った事例はありません。
これらのリスクが顕在化した場合は、営業収入、営業利益が減少するとともに、固定資産の滅失・毀損等、当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があります。
これらのリスクへの対応策は、防火・防災に対応した施設・設備管理を徹底するとともに、緊急時の連絡報告体制やお客様及び従業員の人命・安全を第一にした各種マニュアルの整備等に努めております。また、火災保険等の加入により経済的損害の発生に備えています。
(4) 知的財産権の侵害や不正転売に係るリスク
当社グループの以下の事業において、「ゴジラ」など当社が保有するIPや当社が出資した各種コンテンツの知的財産権が侵害されるリスクや、演劇公演の鑑賞券等の不正転売によるリスクが存在します。
・ 映画事業:映画、映像作品の違法動画配信や海賊版パッケージ商品の流通、またキャラクターグッズ等での無許諾商品、模倣品等による当社知的財産権が侵害されるリスク。
・ アニメ事業:アニメ作品の違法動画配信や海賊版パッケージ商品の流通、またキャラクターグッズ等での無許諾商品、模倣品等による当社知的財産権が侵害されるリスク。
・ 演劇事業:演劇公演の鑑賞券の不正転売リスク、演劇公演の盗撮や違法配信などによる当社知的財産権が侵害されるリスク。
これらのリスクが顕在化する可能性は、様々な対策を講じても一定程度発生することが見込まれ、根絶することはなかなか困難と考えられます。
これらのリスクが顕在化した場合は、損益において逸失利益が発生します。特に海外やインターネット上での知的財産権の侵害は、侵害行為の停止措置が困難な場合もあり、被害が拡大する可能性があります。
これらのリスクへの対応策は、著作権、商標権等の保護に関する各種対策を強化するとともに、一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA)等の業界団体とも連携し、仮にリスクが顕在化した場合は、法的措置を前提に毅然とした対応をとることを徹底しております。また、鑑賞券等の不正転売に関しては、電子チケットの導入を推進していくとともに、行政機関とも協力して可能な限りの対策を講じてまいります。
(5) コンテンツの制作現場に係るリスク
当社グループの映画事業、アニメ事業、演劇事業においては、コンテンツ制作を行う制作現場でのコンプライアンス違反、ハラスメント事案の発生、各取引業者との取引トラブル等のリスクが存在します。
これらのリスクが顕在化することによって、当該コンテンツの利用に支障を来たす可能性が高く、また当社が直接契約関係にない事業者においてリスクが発生する可能性もあり、常に一定程度のリスクは存在すると言えます。
これらのリスクが顕在化した場合は、当社グループの信用を毀損するだけでなく、当該コンテンツの上映、上演や各種利用が行えないといった事態が生じる可能性があります。その場合は営業収入や営業利益が減少し、当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に影響を与える可能性があります。
これらのリスクへの対応策は、当社グループが主導的に製作する実写映画の制作現場においては、一般社団法人日本映画制作適正化機構の審査基準を遵守することにより、適正な制作現場の実現を担保すべく努めてまいります。アニメ制作や演劇制作の現場においても、それぞれのコンテンツ制作の特性を勘案しながら、ハラスメントに関する啓発の実施や適正な就業環境や取引環境の実現を図り、持続的なコンテンツ制作が可能となるよう努めてまいります。
(6) 人権問題に係るリスク
旧ジャニーズ事務所における性加害問題は、決して許されるものではありません。しかしながら、当社グループが当該事務所との間で長年の間、事業上の取引があったことも事実であり、その事実を改めて認識したうえで、当社グループの役員、従業員もしくはその取引先において、性加害問題に限らず、何らかの人権に関する問題が発生するリスクは今後も一定程度存在していると言わざるをえません。
このようなリスクが顕在化した場合には、当社グループの社会的信用が大きく毀損することになり、取引の停止など様々な事業活動に対して広範な影響が懸念され、営業収入、営業利益が減少するとともに、当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があります。
これらのリスクへの対応策として、当社グループでは人権方針を制定し、人権侵害を未然に防ぐための教育を継続的に行うとともに、人権デュー・ディリジェンスを実施して人権に関する課題の把握を行ってまいります。また、当社グループもしくはその取引先において人権に関する問題が発生した場合には、適切な手段を通じ、その是正・救済に取り組みます。
(7) 不動産事業に係るリスク
当社では全国各地に約130物件の不動産を保有しており、飲食・物販店舗やオフィスなどの様々なテナントに対する賃貸借契約によって収入を計上し、安定的なキャッシュ・フローを創出しております。コロナ禍を経て経済活動全般は回復しているものの、在宅勤務の普及に伴うオフィス需給環境の変化や、資材価格の高騰や人手不足等による建築・設備工事費の急騰など、不動産事業を巡る事業環境は大きく変化しつつあります。それらの影響により、当社グループの既存保有物件においては、空室率の上昇や修繕費の高騰などによる賃貸収益の悪化、また、新規取得物件や再開発物件においては、工事費の高騰による投資回収期間の長期化といったリスクが存在します。
これらのリスクが顕在化した場合は、営業収入、営業利益が減少するとともに、当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があります。
これらのリスクに対し、既存保有物件においては、経費節減に努めながら賃料改定などの営業努力を継続し、新規取得物件や保有物件の再開発においては、投資回収計画のより慎重な策定などによってリスクの低減を図ります。
(8) 海外展開に係るリスク
当社グループでは、映画、アニメ事業において、コンテンツの海外展開(海外への映画配給、配信プラットフォームへの利用許諾、商品化権の許諾等)を積極的に行っているほか、演劇事業においても、自社製作作品の海外公演を実施する予定となっております。また、2023年にはタイのアニメスタジオIGLOO STUDIO CO., LTD.及び米国の映像製作会社CJ ENM FIFTH SEASON LLCに戦略的出資を行い、CJ ENM FIFTH SEASON LLCについては持分法適用会社としております。
これらの海外展開においては、戦争、政情不安や経済情勢の不確実性といった地政学上のリスクにとどまらず、各種コンテンツの表現に対する文化や慣習の違いに起因するリスク、知的財産権に関するリスク、SNS等における炎上リスク、各種法的規制の変更に関するリスク、為替リスクなど多岐にわたるリスクが存在します。また、海外を拠点とする子会社等においては、グループ・ガバナンスが十分に行き届かないことによるコンプライアンスリスク等が存在すると考えられます。さらに、戦略的出資をしている海外の会社については、当該会社の経営成績が投資時点で想定されていた事業計画を大きく下回って推移する際には、株式の評価損リスクが生じます。
これらのリスクが顕在化する可能性は、「TOHO VISION 2032 東宝グループ 経営戦略」に基づき、当社グループが成長戦略の一環として、海外展開を積極的に拡大する中で増加しているものと考えられます。
これらのリスクが顕在化した場合は、営業収入や営業利益が減少するとともに、当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があります。また、訴訟コスト等が臨時に発生する可能性があります。
これらのリスクへの対応策として、2023年7月に海外事業を統括する100%子会社としてTOHO Global㈱を設立し、海外拠点等に対するリスク情報の収集とガバナンスの体制を構築するとともに、グループ内での知見の共有や経験豊富な専門家にアドバイスを得るなど、可能な限りリスクの低減に努めています。また、知的財産権に関するリスクについては、法的措置を前提に毅然とした対応を行っております。
(9) 道路事業に係るリスク
当社グループの不動産事業において、スバル興業㈱と同社の連結子会社が道路事業に係わっており、これら事業においては、公共工事への高い依存に伴うリスク、人員不足のリスク、労務費及び資機材価格の高騰リスク、自然災害のリスク、建設業法等の規制に関するリスク等、道路事業特有のリスクが存在します。
これらのリスクが顕在化する可能性は、それぞれ一定程度存在します。また、これらのリスクが顕在化した場合は、営業収入や営業利益が減少する可能性があります。
これらのリスクへの対応策は、スバル興業㈱を中心に安全管理・品質管理の徹底、優れた技術者の採用・育成・配置等など、影響を最小限にするための具体的な施策を実施しております。
(10) 情報セキュリティに係るリスク
当社グループでは、チケット販売やECサイトでの商品販売等で取得したお客様の個人情報や、映像素材のデジタルデータ、その他業務上の重要な情報等において、悪意の第三者からの不正アクセス、コンピュータウィルス侵入等による個人情報・機密情報の漏洩、設備の損壊、社内インフラの停止等のリスクが存在します。また、財務データを含む電子データが暗号化される等により、事業活動の継続ができなくなる等のリスクも存在します。
これらのリスクが顕在化する可能性は、様々な対策を講じても一定程度存在するものと思われます。また、業務のデジタル化、オンライン化が進むに連れ、顕在化する可能性が増加していくものと思われます。
これらのリスクが顕在化した場合は、営業収入や営業利益が減少するとともに、顧客からの損害賠償請求等が発生する可能性があります。
これらのリスクへの対応策として、「情報セキュリティ基本方針」及び「情報セキュリティ対策規程」に則り情報セキュリティ委員会を設置して当社グループの情報システムに関する運用ルールを整備することにより、当社グループ全体の情報セキュリティマネジメント体制の構築に努めています。また、最新の技術に基づく可能な限りのセキュリティ対策やインシデント対応体制の整備、様々なユーザー教育を実施しているほか、サイバーリスク保険への加入により経済的損害の発生に備えています。
(11) 電子商取引(ECサイト等)に係るリスク
当社グループでは、映画館や演劇においてインターネット上でチケットを販売しているほか、複数のECサイトでキャラクターグッズ等の商品を販売しております。これらの事業においては、第三者からの悪意ある攻撃によらずとも、ハードウェア、ソフトウェア、ネットワーク等の障害または人為的なミスにより、システムの運用が停止する事態が発生し、一定期間、チケットや商品の販売ができなくなるリスクが存在します。
これらのリスクが顕在化した場合は、逸失利益が発生するとともに、復旧までに相当の時間を要した場合は、お客様からの当社グループ事業に対する信用の失墜につながる可能性があります。
これらのリスクへの対応策は、過去に発生した障害の分析に基づき、的確な対応策の実施により再発防止に努めるとともに、各ベンダー等との連携を強化し、障害発生時の迅速な復旧対応の体制整備を推進してまいります。
(12) 投資有価証券等に係るリスク
当社グループは、重要な取引先との関係を強固にするため、上場株式および非上場株式を複数保有しておりますが、大幅な株式相場の下落や当該企業における企業価値の毀損が生じた場合には、保有有価証券を減損処理する可能性があります。
これらのリスクへの対応策は、有価証券の投資基準・保有意義を明確にするとともに、取締役会への報告を含む定期的なモニタリングを実施することで、リスクの軽減に努めています。
(13) 気候変動に係るリスク
近年、気候変動に伴う温室効果ガスの排出抑制の取り組みは世界中で進みつつあり、映画、アニメ、演劇等のエンタテインメントを主業とする当社グループにおいても、企業の社会的責任として脱炭素や循環型社会に向けた取り組みを推進して行かなければ、信用の毀損に伴う収益の減少や株式市場における企業価値向上に支障が生じる可能性があります。
これらのリスクへの対応策として、当社グループはサステナビリティの基本方針の中の重要課題の一つとして「地球環境に優しいクリーンな事業活動を推進します」を掲げ、脱炭素の実現に向けTCFDに基づく情報開示やCDP評価を受けるなど第三者からの評価や視点も取り入れながら取り組んでおり、今後も再生可能エネルギー等を活用したCO2排出量削減、事業活動における環境負荷の少ない素材の活用や廃棄物の削減等を推進してまいります。
配当政策
3 【配当政策】
当社は、株主の皆様に対する利益還元の充実を経営の重要課題の一つとして位置付けております。
剰余金の配当については、成長投資に向けた財務体質の強化を図りつつ、2022年4月に公表いたしました「中期経営計画 2025」において、株主還元の数値目標として、「年間40円の配当をベースに配当性向30%以上」とすることを基本方針としております。
当期末の配当金については、上記基本方針と当期の業績等を総合的に勘案し、直近の配当予想から25円増配し、1株当たり65円とし、中間配当金1株当たり20円と合わせ年間85円といたしました。
また、当社は、会社法第454条第5項に規定する中間配当を取締役会決議において行うことができる旨を定款に定めており、中間配当と期末配当の年2回の配当を行うことを基本方針としております。これらの配当の決定機関は、期末配当については株主総会、中間配当については取締役会であります。
なお、当社は連結配当規制適用会社であります。
当期を基準日とする剰余金の配当は以下のとおりであります。