2023年12月期有価証券報告書より

リスク

 

3 【事業等のリスク】

1.当社グループにおけるリスクマネジメント

(1)ERM導入によるリスク管理の高度化

当社グループでは、企業価値の最大化を図るため、事業活動に係るあらゆるリスクを可視化し、統合的に管理を行うERM(Enterprise Risk Management=全社的リスクマネジメント)のフレームワークを導入しています。具体的には、リスク選好に係る方針を「リスクアペタイト ステートメント」として明示し、全社的に対処すべきリスクを「戦略リスク(=戦略の意思決定に内在するリスクや戦略の遂行を阻害するリスク)」と「オペレーショナルリスク(=事業の円滑な運営を阻害するリスク)」に分け、一元的に把握・整理・可視化することで、効果的・効率的な運用によるリスク管理の高度化を図っています。また、適切な情報開示により、社外のステークホルダーへの説明責任を強化していきます。

 


 

(2)ITシステム活用によるリスク管理の効率化

全社的なリスク情報の把握・分析・フィードバックを効率的に推進するため、独自のリスクマネジメントシステムを開発し、グローバルで運用しています。このシステムには、各部門がリスクマップや年間リスク対応計画、インシデント報告、BCPマニュアル等を登録し、データベース化して一元管理することで、グループ全体のリスク分析や各部門での対策の状況をモニタリングしています。

 


 

 

2.中外製薬リスクアペタイト ステートメント

当社グループでは、社会との共有価値を創造し、企業価値を高める企業活動の根幹となるミッションステートメント(=企業理念)を基点とした事業経営において、経営目標の達成や戦略遂行を阻害する事象を「リスク」と捉えています。

戦略の意思決定や事業の円滑な運営を適切に行うために、リスクへの対応方針である「リスクアペタイト ステートメント」を定め、健全なリスクカルチャーの醸成を図るとともに、従業員の一人ひとりがこれに基づいて判断・行動することを徹底します。

 

●イノベーションの追求に伴うリスク

・私たちの存在価値と成長の源泉は「イノベーションの追求」です。最先端のサイエンスと技術、デジタルによる革新を追求することで世界のアンメットメディカルニーズに対する新たなソリューションを生み出し、高度で持続可能な医療の実現を通じて社会との共有価値を創造する「ヘルスケア産業のトップイノベーター」を目指します。

そのために、自社を取り巻く経営環境や自社の強み、患者ニーズやサイエンス・技術の見通し等を分析し、社会の期待や要請を適時・適切に捉えるとともに、経営戦略や各々のプロジェクトに潜在するリスクを特定し、経営資源の選択と集中、外部パートナーとの協働・連携の強化、デジタル技術の活用など然るべき対策を講じながら、リスクをとって積極果敢にイノベーション創出の機会を追求します。

・また、イノベーション創出には、従業員の多様性や人権を尊重することで、すべての従業員の能力が最大限発揮できる働きやすい環境の実現と、戦略目標達成・イノベーションを牽引するリーダー人財・高度専門人財の早期発掘・育成・獲得及び活躍促進が不可欠です。

そのため、私たちは、チャレンジを奨励する組織文化・制度設計・意思決定を大切にしながら、高度かつ多様な人財が活躍し、イノベーションが創出されることを妨げるあらゆるリスクを低減することに努めます。

 

●製品の有効性・安全性/品質保証/安定供給を阻害するリスク

・私たちが患者さんに価値を安定的にお届けするにあたっては、何よりも製品の有効性や安全性、そしてそれらを担保する品質が重要であると考えます。

・そのため、私たちの製品やイノベーションの追求には、予期せぬ副作用が生じるリスクが潜んでいることを意識しながら、有効性と安全性を十分に検証し、経済性も考慮のうえで高い品質を保証しなければなりません。

・私たちは、デジタル技術を活用しながら、自社のビジネスプロセス(研究、開発、製薬、マーケティング、メディカルアフェアーズ、医薬安全性、知的財産・信頼性保証)における適正な分業・協業や、グローバルサプライチェーンマネジメントの強化、グローバル品質システムの維持・向上を図るとともに、生産性向上や在庫管理の最適化など、経済性の側面での対策も進めながら、有効性・安全性が確保され、品質が保証された製品の安定供給を阻害するリスクを回避・低減することに努めます。

 

●コンプライアンスに反するリスク

・私たちは、「企業倫理は業績に優先する」という考えのもと、法規制の遵守にとどまらず、社会的価値観や倫理観、公正さに基づく判断・行動を徹底します。そのために、ミッションステートメント(=企業理念)やグループ コード・オブ・コンダクト、その他社内規程/ガイドラインを制定しており、これに反する判断・行動を認めず、コンプライアンスに反するリスクは一切受け入れません。

また、サプライチェーン全体におけるコンプライアンスを徹底するため、自グループ内のみならず、ビジネスパートナーに対しても、高い倫理観に基づく誠実な活動を求めます。

 

●企業市民としての社会的責任に関するリスク

・私たち企業は、地球環境や社会システムのうえで成り立っており、これらを維持・発展させることは、企業市民としての私たちの責任であると考えます。

・私たちは、地域社会や国際社会が抱える課題に向き合い、中外製薬としてどのように貢献すべきかを考え、様々なステークホルダーと連携・協働しながら、事業活動のあらゆる場面において、環境保全や人権の尊重に努めることで、地球環境問題や社会的な差別・人権侵害の解消に貢献するとともに、医療・福祉を中心とした社会貢献活動に積極的に取り組むことで、企業市民としての役割・責任を果たせず、社会からの信頼を損なうリスクを低減することに努めます。

 

 

 

 

3.主要なリスク

当社グループの業績は、今後起こりうる様々な要因により重大な影響を受ける可能性があります。以下において、当社グループの事業展開上のリスク要因となる可能性がある主な事項を記載しています。

当社グループはこれらリスク発生の可能性を認識したうえで、発生の予防及び発生した場合の対応に努める方針です。

なお、これらは当社グループにかかるあらゆるリスクを網羅したものではなく、記載以外のリスクも存在し、投資家の判断に影響を及ぼす可能性があります。また、文中における将来に関する事項は当連結会計年度末現在において当社が判断したものであります。

 

(1)経営戦略に関連する潜在リスク(戦略リスク)

① 技術・イノベーションについて

当社グループは、ロシュとの戦略的アライアンスのもと、自社の強みであるサイエンス力と技術力をさらに強化することで、革新的な医薬品の創出に努めています。そして、成長戦略「TOP I 2030」においては、RED機能(研究・早期開発)への経営資源の集中を推進しています。特にこれまでの低分子・抗体医薬では解決できなかったアンメットメディカルニーズ(有効な治療方法が見つかっていない疾病に対する治療薬への要望)を満たすことが期待される中分子技術の開発に注力するとともに、生成AIを含むデジタル技術を活用し研究開発プロセスの効率化に積極的に取り組んでいます。

しかしながら、医薬品の研究開発には、常に不確実性(自社創薬・技術開発の遅れや失敗)が存在します。このため、当社が目指す価値の創出や戦略の実行が遅延する影響が想定されます。さらにサイエンス、医薬品開発、デジタルという日進月歩の分野では、破壊的な新技術・ソリューションや競争優位性の高い革新的な製品などの出現により、自社技術・プロジェクトの価値低下や開発計画の見直しが生じるリスクがあります。また、当社グループは業務活動において、当社グループ所有、あるいは適法に使用許諾を受けたものであると認識の下で様々な知的財産権を使用していますが、当社グループの認識の範囲外で第三者による侵害や三者の知的財産権を侵害する可能性があり、当社技術・製品の価値低下や係争に至るケースも考えられ、他社特許による技術使用不能や使用料発生など戦略遂行に重大な影響を与える可能性があります。

こうしたリスクに対しては、最先端のサイエンス・技術の探求を怠らず、経営資源の選択と集中により自社技術の優位性を高めるとともに、マルチモダリティ戦略の追求やCVF(Chugai Venture Fund)投資を含む外部連携の強化により多様性を高めることに努めています。中分子医薬の開発にあたっては関連する社内組織(創薬・開発・製薬)の連携強化、知的財産権についてはライセンス先との連携強化を含む知財戦略のさらなる強化、積極的な知財対応を図ってまいります。

当社グループはリスクアペタイトに基づき、リスクをとって積極果敢にイノベーション創出を追求するとともに、職場環境や組織文化、人財育成などの面からもイノベーションを奨励する仕組みを強化し、イノベーション創出を妨げるリスクの低減に努めます。

 

② 制度・規制・政策

ⅰ.医療制度・薬事規制について

国内外において高齢化の進展や医療費高騰などによる財政逼迫を背景とした薬剤費引き下げ政策の強化が進められています。加えて新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行に伴う多額の財政出動の結果、各国が進める医療費抑制はさらに加速することが予想されます。日本においては昨今の安全保障政策の強化に伴う防衛費の増大等により、医療等の社会保障財政への影響も懸念されます。2024年の薬価制度改革で医薬品のイノベーションに対する評価が行われることになったものの、既に2年に一回行われている薬価改定に加え、2021年度に導入された中間年改定が実施される中、こうした薬価引き下げ政策やバイオシミラー(バイオ後続品)等の振興政策が拡大すると、これまで以上に収益の低下等を招き、研究開発への投資を妨げるリスクがあります。また、海外においても、医療制度・薬事規制改革の内容や環境動向を適時適切に把握し、開発・薬事計画などの対応を進めているものの、規制動向の把握が遅れることにより計画の修正や開発が遅延することが懸念されます。

 

一方、こうした政策により今後ますます「Value Based Healthcare(価値に基づく医療)」が進展し、患者さんにとって真に価値のあるソリューションだけが選ばれる傾向がより一層強まると考えられます。当社グループは、引き続き患者さんへの高い価値の証明に注力し、継続的な次世代品の開発・知財対応、製品ポートフォリオ管理の強化を図ります。そして、日本のみならず海外インテリジェンス機能の強化等に取り組んでまいります。

 

ⅱ.環境規制について

環境保全活動はすべての事業活動を支える重要な基盤であり、長期的視点で環境リスクを低減するだけでなく将来コストの低減、イノベーションを生み出す施設・設備体制構築にもつながるため、企業価値向上に大きく影響するものと考えています。一方で、企業を取り巻く環境規制の更なる厳格化により、規制対応のために設備投資計画の見直し・遅延や、追加的な費用計上など環境投資の増大が生じる可能性があります。規制動向のタイムリーな把握に加え、最新技術の動向把握と的確な取り入れを行っていくとともに、世界的な環境コンセンサスを踏まえた挑戦的な「中期環境目標2030」を掲げ、ロシュや外部パートナーとの連携による革新的な地球環境保全活動とエビデンスに基づく能動的な情報開示により、環境課題の解決をリードする世界のロールモデルを目指していきます。

 

③ 市場・顧客について

ⅰ.市場・顧客の変化

近年、競合品やバイオシミラー(バイオ後続品)の浸透加速による競争激化に加え、再生医療、細胞/遺伝子治療、核酸医薬など新たな治療手段(モダリティ)の進展や、予防・診断・治療・予後まで一貫した価値提供が求められるようになり、「治療」の価値が変化してきています。さらに、新型コロナウイルス感染拡大の影響を背景に、製薬企業における医薬品の情報提供体制、すなわち顧客タッチポイントのあり方も大きく変容しています。

このような状況において、市場での地位や製品競争力が低下し収益が悪化するリスク、あるいは顧客タッチポイントの急速な変化等により、医薬品の情報提供体制の抜本的な見直しを迫られる可能性があります。

こうしたリスクに対応するべく、当社グループでは連続的な新薬の創出と製品ラインアップの多様化に努めるとともに、営業資源を適切に配分し、顧客エンゲージメントを強化してまいります。そのためにもDXの推進による効率化と環境変化に迅速に対応できるフレキシブルな組織体制の構築を目指します。

 

ⅱ.地政学リスクの高まりによる事業制限

ウクライナ紛争や台湾情勢などの各国間の緊張の高まりによる人権、ハイテク、データ、戦略物資への規制強化をはじめとした各国の経済安全保障法制の強化や、国際紛争による物流への影響など、近年、地政学リスクの高まりに端を発した企業活動への影響が出てきています。

これら国際情勢の急激な変化や武力衝突の発生によって、関連地域における事業制限・撤退(生産・R&D・販売拠点の喪失、利益減少、将来の機会損失)、関連地域におけるサプライチェーン停滞・供給遅延などのリスクが生じる可能性があります。

これら地政学・経済安全保障リスクに対して、当社グループでは、各国法制や政策の動向など外部情報をタイムリーに入手し、事業影響分析を行う社内体制の強化に取り組んでいます。そして、サプライチェーン全体の可視化に努めるとともに、有事に備えた安全管理体制の再整備、事業継続計画(BCP)・供給バックアップ体制(デュアルサイト化)の強化などを行っています。

 

 

④ 事業基盤について

ⅰ.ロシュとの戦略的提携

当社グループはロシュとの戦略的提携により、日本市場におけるロシュの唯一の医薬品事業会社となり、また日本以外の世界市場(韓国・台湾除く)ではロシュに当社製品の第一選択権を付与し、多数の製品及びプロジェクトを同社との間で導入・導出しています。独自のビジネスモデルによって安定的な収益基盤を確立し、飛躍的な成長を遂げてまいりました。

これまでの戦略的提携における合意内容が変更となった場合、業績に重大な影響を与える可能性があります。また、ロシュの創薬・グローバルネットワークが不調に陥り、ロシュからの導入品による安定的な収益源が低下するリスクやロシュに導出した自社品のグローバル市場浸透の遅延や収益低下などのリスクがあります。

当社グループとしてはイノベーションを追求し、革新的な医薬品を連続的に創出するとともに、ロシュとの連携によりグローバル開発・マーケティング計画の策定及び実行の支援を強化するとともに、ロシュグループ全体の価値最大化に資する導出戦略の実行と、ロシュ戦略を踏まえた最適な導入戦略の実行に努めてまいります。

 

ⅱ.人事・組織

当社は2020年に新たな人事制度を導入し、適所適財に基づく人財配置の徹底、タレントマネジメントの高度化、そして「挑戦・成長」を推奨する組織文化の醸成を図っています。また、サイエンス人財やデジタル人財など、戦略遂行上の要となる高度専門人財の発掘・育成・獲得に注力しています。

一方、人財獲得ニーズの競合等による獲得の遅れや社内育成に要する時間、環境変化により求められる業務・質の変化による人財のミスマッチや不足、余剰等が発生するリスク、あるいは期待される組織文化が醸成されず、イノベーションの創出が阻害されるリスクなどが想定されます。

こうしたリスクに対応するべく、戦略遂行上の要となる人財要件を明確の定義・更新し、社外にも積極的に開示することで、計画的に獲得を目指す一方、社内では定着・育成に向けた施策の強化に努めています。今後も、組織・人財への投資を強化し、環境動向を見極めた組織体制と戦略的な採用計画を実施するとともに、イノベーション創出を促進する人事戦略・組織風土改革の実行に努めてまいります。

 

ⅲ.収益構造

製薬産業における技術の進歩は顕著であり、国内外製薬企業等との厳しい競争に直面する中、想定を超えるR&D投資やオペレーションコストの増加が収益構造に影響を及ぼす可能性があります。このため、デジタルを活用したプロセス改善と生産性の向上によるオペレーションコストの最適化に取り組むとともに、投資プロジェクトの見極めによる適切な資源配分を行ってまいります。

 

ⅳ.デジタル基盤

すべてのバリューチェーンで生産性の飛躍的向上を図るべくデジタル投資を加速する一方、デジタル技術が進展せず、戦略実行が遅延するリスク、社内のデジタルケイパビリティ不足、デジタルコンプライアンスの理解不足等によりデジタルトランスフォーメーション(DX)の停滞やトラブルが発生するリスクがあります。また、生成AIの活用が遅れることによる競争力低下のリスクも想定されます。技術動向把握のアンテナ機能を拡充するとともに、専門部署強化と外部専門人財の積極活用によるケイパビリティの強化、生成AIの全社的活用推進とコンプライアンスリスク評価体制の強化に取り組みます。

 

 

(2)事業遂行におけるリスク(オペレーショナルリスク)

① 品質・副作用について

患者さんに価値の高い製品・サービスを安定的にお届けするにあたっては、製品の有効性や安全性は勿論のこと、それらを担保する品質が重要であると考えます。当社グループでは、製品や情報の質に加えて、業務プロセスの質とそれを担う人財によって事業の信頼性を確保しています。また、高品質な製品や情報を提供するには社外パートナー企業との連携も重要なことから、パートナー企業とも品質や風土について議論する場を定期的に設けるなど、様々な取り組みを行っています。しかしながら、何らかの原因により製品品質に懸念が生じた場合には、販売中止・製品の回収、訴訟や損害賠償、社会的信頼の低下などにより、業績に重大な影響を与える可能性があるため、パートナー企業のリスク評価及び連携を含めた品質保証活動の強化・徹底を図ってまいります。

医薬品・医療機器は各国規制当局の厳しい審査を受けて承認されます。当社グループでは、承認後も医薬品の安全性監視活動を強化・徹底するとともに、「調査・副作用・治験データベースツール」による患者さんの特性に応じた迅速な情報提供や、「治療支援アプリ」の運用、医療関係者への安全性コンサルテーション・ネットワーク体制の構築など、適正使用に向けた安全性情報提供活動の強化を図っています。しかしながら、万全の安全対策を講じたとしても副作用等の健康被害を完全に防止することは困難であり、副作用、特に新たな重篤な副作用が発現した場合には、「使用上の注意」への記載を行うほか、販売中止・製品の回収等に至ることもあり、業績に重大な影響を与える可能性があります。

 

② ITセキュリティ及び情報管理について

業務上、各種ITシステムの利用において、従業員・アウトソーシング企業の不注意または故意による行為や、サイバー攻撃等の外部要因によりシステム障害や社外提供サービスの停止、提供情報の改ざん等が生じた場合、事業活動の停止・遅延・計画の見直しや、突発的な対応・対策費用などが発生する可能性があります。また、万が一、研究開発等にかかる営業秘密や個人情報等が社外に流出した場合、競争優位性の喪失、社会的信頼の喪失、損害賠償などにより、業績に重大な影響を与える可能性があります。

当社グループはこれらのリスクに備え、情報管理及びサイバーセキュリティに関する社内ルールの策定、従業員への教育・訓練、システムの堅牢性・可用性の強化、サイバー攻撃・マルウェア感染などの監視(SOC)及びインシデントレスポンス(CSIRT)体制の構築、インシデントの早期対応策の策定(サイバーBCPの策定)を実施しています。特に機密情報管理では、ITシステム面からも強化を図り、業務ファイルごとのアクセス管理、不注意または故意による情報流出の阻止及び流出後の拡散防止などの機能の導入を進めています。個人情報管理においては、ますます活発になる越境データ移転に対応するためにグローバルプライバシーガバナンス体制の構築を進めています。グローバル基準での適法対応を推進するとともに、データの利活用をコンプライアンス面からも支援しています。また、これらの対策状況をグループ横断的に評価し強化するためのセキュリティガバナンス体制を構築し、継続的なリスクの低減に努めています。

 

③ 大規模災害等による影響について

地震、台風、洪水等の自然災害、火災等の事故により、当社グループの事業所・営業所及び取引先の建物・設備等が深刻な被害を受けた場合、医薬品の供給停止や設備修復などの費用計上の発生、事業活動の制限や新製品の浸透遅延、それらによる収益の低下など、業績に重大な影響を与える可能性があります。

当社グループは、これらのリスクに備え、事業継続計画(BCP)の策定・訓練実施、安全在庫確保、耐震対策、損害保険加入など、従業員の安全と医薬品の安定供給のための体制を整備し、リスクの低減に努めています。

 

 

④ 人権について

企業活動における人権侵害の発生は、企業イメージの低下、不買運動、訴訟提起や損害賠償の支払、人財の流出などに繋がり得るもので、業績に重大な影響を及ぼす可能性があります。また、職場におけるハラスメント等により、従業員の健康やメンタルヘルス、人財力の低下を招くリスクが高まります。

当社グループでは、「人権」を経営に重要な影響を及ぼすリスクの一つとして捉え、「国連ビジネスと人権に関する指導原則」に基づき、人権尊重のグループガバナンス体制を構築するとともに、サプライチェーン全体の可視化と取引先の人権リスク評価・対策を含むデューデリジェンスの強化に取り組んでいます。

 

⑤ サプライチェーンについて

自然災害、国際紛争、事故、パンデミックの発生等により当社の原材料調達先や外部製造委託先などのサプライヤーに被害や事業活動の制限が生じた場合、また、サプライチェーンにおけるコンプライアンス違反や環境問題などへの対応が遅延した場合、原材料の確保や生産の継続が困難となる可能性があり、社会的信頼の喪失や売上・シェアの低下により業績に重大な影響を及ぼす可能性があります。

当社グループは、これらサプライチェーンに係るリスクに備え、サプライチェーン全体の可視化、事業継続計画(BCP)の策定、安全在庫確保、代替先の確保など、医薬品の安定供給のための体制を整備しています。

また、サプライヤ―のみならず、広くサードパーティ(取引先)を対象に包括的なリスク評価システムを導入し、リスクの一元的管理に取り組んでいます。取引先におけるコンプライアンスや環境問題など当社グループだけでは解決できない課題に関し、連携・情報共有体制を構築し、取引先と協力して課題解決に努める方針です。

 

⑥ 地球環境問題について

地球環境保全のための重大な課題の一つとして、気候変動リスクをとらえており、マテリアリティとして特定した気候変動対策、循環型資源利用、生物多様性保全の3つの課題について、2030年を最終年とした中期環境目標を推進しています。

環境関連法規等の遵守はもとより、さらに高い自主基準を設定してその達成に向けて努めていますが、万が一、有害物質による予期せぬ汚染やそれに伴う危害が顕在化した場合、対策費用や損害賠償責任を負うなどにより、業績に重大な影響を与える可能性があります。また、将来における環境関連法規制の強化により、対策費用の増加や当社グループの研究、開発、製造、その他の事業活動が制限される可能性があります。

なお、当社グループは、透明性・信頼性の高い環境情報を開示するため、毎年、環境パフォーマンスデータの第三者保証を取得しております。また、「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言」のフレームワークに基づき、気候変動が当社へもたらすリスクと機会を織り込んだ定性評価及びシナリオ分析を実施し、長期的に大規模な事業転換や投資を必要とする重大な気候関連リスクは特定されていません。加えて、2021年には、弊社の温室効果ガス削減目標に対してScience Based Target(SBT)事務局よりSBT認定を取得しています。今後も継続的に分析・評価を行い、プロアクティブな環境課題の解決に取り組んでいきます。

 

⑦ パンデミックによる影響について

今後、新たな感染症の全国的・世界的な大流行等により事業活動が制限された場合、サプライチェーンの停止・遅延により製品供給に重大な影響を及ぼす可能性があります。また、研究・臨床試験の進行や、MR活動の制限による新製品等の浸透に遅延が生じる可能性があります。

当社グループとしては、これらのリスクに対し、患者さんに対する医薬品の安定供給という社会的責務を果たすべく、感染症拡大時においても、必要な医薬品の提供体制を維持することを基本方針としてBCPを策定するとともに、テレワークなど柔軟性の高い働き方と生産性の維持・向上を実現する「新しい働き方」を活用していきます。

 

配当政策

 

3【配当政策】

当社は、戦略的な投資資金需要や業績見通しを勘案したうえで、Core EPS対比平均して45%の配当性向を目途に、株主の皆様へ安定的な配当を行うことを目標といたします。

当社は、中間配当と期末配当の年2回の剰余金の配当を行うことを基本方針としており、これらの剰余金の配当の決定機関は、期末配当につきましては株主総会、中間配当につきましては取締役会であります。

当事業年度は、中間配当として1株当たり40円、期末配当は1株当たり40円といたしました。これによりCore配当性向は39.5%(日本基準による単体配当性向は40.5%)となります。

内部留保資金につきましては、一層の企業価値向上に向け、現戦略領域でさらなる成長を図ることや将来ビジネス機会を探索するための投資に充当してまいります。

当社は、「取締役会の決議によって、毎年6月30日の最終の株主名簿に記載または記録された株主または登録株式質権者に対し、中間配当をすることができる。」旨を定款に定めております。

なお、当事業年度の剰余金の配当は以下のとおりであります。

 

決議年月日

配当金の総額
(百万円)

1株当たり配当額
(円)

2023年7月27日

取締役会決議

65,811

40

2024年3月28日

定時株主総会決議

65,813

40

 

(注)金額は百万円未満を四捨五入して記載しております。