2024年3月期有価証券報告書より

リスク

3【事業等のリスク】

 (1) 当社グループのリスクマネジメント体制

 当社グループは、事業活動に関わるあらゆるリスクを的確に把握し、リスクの発生頻度や経営への影響を低減していくため、当社の経営戦略部を当社及び西武グループ全体のリスクマネジメント統括部署とし、同部担当の業務執行担当役員を、グループ全体のリスクマネジメントの実施及び運用の責任と権限を有するリスクマネジメント総括責任者とするとともに、当社において、当該リスクマネジメント総括責任者を議長とし、当社の各部長・室長を構成員とするリスクマネジメント会議を開催しております。

 また、グループ内子会社のうち、主要7社各社に、当該各社及びそれぞれの会社がガバナンスの観点から監督すべき系列の会社(以下、「ガバナンス系列の会社」といいます。)におけるリスクマネジメントに関する社内体制を統括する部署としてリスクマネジメント統括部署を設置しています。さらに、当該主要7社各社のリスクマネジメント統括部署を担当する業務執行役員を、当該各社及びそれぞれの会社に属するガバナンス系列の会社におけるリスクマネジメントの実施及び運用の責任を有するリスクマネジメント責任者としています。

 各社リスクマネジメント統括部署は、リスクマネジメントの状況を取りまとめ、各社のリスクマネジメント総括責任者又はリスクマネジメント責任者に報告します。かかる報告を受けたリスクマネジメント責任者は、当該報告を取りまとめ、各社の取締役会及び内部監査部門、ならびに当社のリスクマネジメント総括責任者に報告しております。さらに、リスクマネジメント総括責任者は、これらの報告を取りまとめ当社の取締役会及び監査・内部統制部に報告しております。

 

 

 (2) 当社グループのリスクマネジメントの運用

 当社グループにおけるリスクマネジメントは、毎事業年度におこなうリスクマネジメント計画の策定と当該計画に基づく継続的なモニタリングにより運用しております。

 リスクマネジメント計画は、①リスクの洗い出し(抽出)、②リスクの大きさ算定(分析)と優先順位付け(評価)、③リスク対策(行動計画)の決定、というプロセスを経て、策定しております。

 また、計画開始後のモニタリングは、外部環境の変化にともなうリスクの変動及びリスク対策の進捗等を踏まえた残余リスク(リスクコントロールの実施後に残るリスク)に着目して実施しております。

 当社グループは、当社グループが策定した「西武グループ長期戦略2035」(以下、「新・長期戦略」といいます。)及び「中期経営計画(2024~2026年度)」(以下、「新・中期経営計画」といいます。)と有機的一体となった運用により、当社グループの戦略目標達成を支える質の高いリスクマネジメントをおこなってまいります。

 以下では、当社グループのリスクマネジメント計画の策定プロセスの具体的内容について記載いたします。

 

  ①リスクの抽出

 リスクの抽出は、次のとおり、当社グループ内においてトップダウン及びボトムアップの双方向のアプローチに基づくプロセスを経ております。

 当社は、当社のリスクマネジメント会議での議論及び当社の社外取締役との意見交換も経ながら、当社グループ全体の目標達成を阻害する可能性のあるリスク要因を抽出しております。並行して、主要7社各社も、主要7社各社及び各社のガバナンス系列の会社の目標達成を阻害する可能性のあるリスク要因を抽出しており、双方で抽出したリスク要因をあわせることで、リスクの網羅的な抽出をおこなっております。

 当事業年度末時点においては、新・長期戦略及び新・中期経営計画の内容を踏まえ、上記のプロセスを経てリスク要因を抽出し、最終的に14項目の主要なリスクカテゴリーに分類・整理いたしました。

 

 

 

  ②リスクの分析・評価

 当社グループでは、発生可能性及び影響度の観点からリスク分析をおこなっております。具体的には、主要7社各社が、発生可能性ならびに主要7社各社及び各社のガバナンス系列の会社の目標達成に対する影響度を分析し、当社は、主要7社各社の分析結果も踏まえ、当社グループ全体としての発生可能性及び目標達成に対する影響度を分析、評価しております。

 当事業年度末時点においては、上記分析に基づき、当社は、14項目の主要なリスクカテゴリーのうち、特に重要なリスクカテゴリーとして8項目を決定いたしました(リスク評価)。

 当該分析及び評価の結果は次のとおりです。

 

 

発生可能性

・安全・安心

・情報システム・

 情報管理

・自然災害・感染症・

 地政学的リスク等

・旅行・観光消費動向

・収支構造・金利

・不動産領域

・人財確保

・少子高齢化

・技術革新・価値変容

・法的規制・

 コンプライアンス等

・ブランド・風評

・経済情勢

・気候変動

 

・協力企業との取引・共創

 

 

  ③リスク対策

 当社グループは、リスクマネジメント計画策定時に、残余リスクとして残存したとしても経営上許容し得るリスクの程度について議論をおこない、かかる議論を踏まえて具体的なリスク対策を決定しております。

 主要なリスクカテゴリーに対するリスク対策の概要については、後掲(3) 及び(4) に記載いたします。なお、後掲(3) 及び(4) に記載する事項には将来に関する事項が含まれておりますが、当該事項は原則として当事業年度末現在において判断したものであります。

 

(3) 特に重要なリスクの内容及びリスク対策の概要

 

①不動産領域に関するリスク

発生可能性:高

影響度:大

●リスクの内容

 当社グループの新・長期戦略においては、都市交通・沿線事業やホテル・レジャー事業は、不動産事業とともに成長していくものであり、不動産事業が当社グループの成長の核となります。そのため、不動産領域に存在するリスクは、当社グループの長期的な成長に大きな影響を与える可能性があります。具体的には、2022年4月に株式会社プリンスホテルが株式会社西武プロパティーズを吸収合併して組成された株式会社西武リアルティソリューションズ(以下、「SRS」といいます。)が総合不動産会社へと飛躍していくうえで、(ア)投資判断上の課題、(イ)開発用地・不動産の取得、(ウ)不動産開発・建替、(エ)不動産価値の低下、及び(オ)不動産の管理といったあらゆるリスクに対処する必要があります。特に、(ウ)不動産開発には長い開発期間と巨額の投資が必要となり、当社グループではコントロールできない多くの外部要因により、影響を受ける可能性があること、及び、(エ)不動産市況の変化や老朽化によって不動産価値が減少し、又は工事費をはじめとする各種コストの高騰により売却利益の減少や損失が発生する可能性があること、について注視する必要があります。

 新・長期戦略では、東京ガーデンテラス紀尾井町について2024年度内の流動化を目指していることをはじめとして不動産回転型ビジネスを本格的に展開していくこととしていますが、上記のリスクのうち特に(エ)不動産市況の変化による不動産価値の低下等に起因する売却利益の減少や損失の発生等のリスクに留意する必要があります。

●リスク対策

 専門人財の登用やM&A、組織再編等をおこないながら、総合不動産会社として求められる体制・機能を早期に充足することに尽力し、リスク顕在化による影響を低減いたします。

 (ウ)不動産開発に関するリスク等、当社でコントロールできないリスクについては一定のリスクの発生を織り込んだうえで投資判断・事業をおこない、また、遅延や異常が発生した場合には、速やかな社内報告、対策の検討及び実施ができるガバナンス体制を構築することでリスク顕在化による影響を低減いたします。

 (エ)不動産価値の低下リスクについては、貸借対照表の適正なコントロールや最適なポートフォリオの構築を通じて、リスク耐性のある事業基盤を構築するとともに、資本効率性を意識した商品企画・サービスの向上及びバリューアッドを通じた市場競争力の強化によって、リスクの発生可能性及び顕在化による影響を低減いたします。

 

 

 

②人財確保に関するリスク

発生可能性:高

影響度:大

●リスクの内容

 日本全体の少子高齢化・人口減少はメガトレンドとして避けられず、働き手が慢性的に不足し、採用市場は売り手市場が続くことが予想されます。当社グループにおいても、想定どおりの採用が実施できなかった場合や、キーパーソンや若手社員が働きがいを感じられず人財の外部流出が進む場合など、人員が不足した結果、事業機会を逸失、事業戦略の実行力低下を招く、といったリスクが想定されます。特に成長戦略の核を担うSRSでは、不動産回転型ビジネスや都心・リゾート再開発等を担う専門人財の確保が遅れる場合、これらのビジネスが停滞し、損失を招くリスクが想定されます。

●リスク対策

 当社グループは、新・長期戦略におけるマテリアリティ(重要テーマ)の一つとして「多様な人財の育成・活躍」を位置づけ、その一環として「西武グループ人財戦略」を策定いたしました。当社グループの各社が「人財スキル・人員数の確保」「働きがいのある組織」に向けた取組みをおこなうことにより「個人の成長」を促進し、「個人×個人が最大限活躍できる組織」をつくっていくことで本社・現場全員が一丸となって「プロフェッショナル集団」を目指します。全社的に、従来の新卒定期採用に加え、キャリア採用や副業等の市場に着目し、人財確保につなげるとともに、確保した人財や既存従業員に当社グループで活躍いただけるように、働きがいを向上させます。働きがいに関する調査結果を踏まえ、人事施策をブラッシュアップしていくことにより、従業員が会社の目指す姿に共感し、一体となって挑戦している組織の状態を築くとともに、社内外に開けたオープンマインドや高い心理的安全性を前提としたダイバーシティやインクルージョンを実践してまいります。これらの施策を着実に実行することでリスクを回避いたします。

 

 

③少子高齢化に関するリスク

発生可能性:高

影響度:大

●リスクの内容

 日本全体の少子高齢化・人口減少はメガトレンドとして避けられず、当社グループの事業においては、具体的には、(ア)鉄道沿線の人口減少による運輸収入や沿線での各種事業(西武ライオンズ等も含みます。)の収入減、観光客の減少によるホテル・レジャー事業等の収入減、(イ)お客さまの高齢化にともなうニーズの変化に適応できなかった場合のお客さま満足度低下、収入減、及び(ウ)不動産需要の低下、市況の悪化による地価等の下落、等のリスクが想定されます。

●リスク対策

 不動産事業を核とする成長戦略を実行し、キャピタルリサイクルによりグループの成長に寄与するキャッシュ・フローを生み出す方向性へ事業ポートフォリオ変革を進めていくこと、また、グループ外のスタートアップ企業等と連携しながら、新規事業創出にも挑戦し続け、長期的目線での事業ポートフォリオマネジメントもおこなうことを通じて、リスク顕在化による影響を低減いたします。

 また、不動産事業のうちリゾート開発において付加価値の高い国際的リゾートを創造していくこと、ホテル・レジャー事業において富裕層をターゲットとするラグジュアリーブランドの出店にも注力し、ホテル展開を加速させていくこと、グループマーケティング基盤上のデータを利活用しながら、お客さまのニーズをタイムリーに把握しサービス変革を果たすこと、及び、あらゆる年代のお客さまにとって快適なサービスの形を追求し(施設、接遇等)、当社グループ独自の体験価値を提供すること、を通じて市場での競争力を強化し、リスク顕在化による影響を低減いたします。

 さらに、西武鉄道株式会社(以下、「SR」といいます。)の沿線地域の土地が強固な地盤であることも強みに、SRとSRSが連携してSR沿線エリアの街づくりに取り組んでいくこと等を通じて、SR沿線地域の少子高齢化・人口減少を抑制し、リスクの発生可能性も低減いたします。

 

 

④技術革新・価値変容に関するリスク

発生可能性:高

影響度:大

●リスクの内容

 新型コロナウイルス感染症の蔓延を契機とした人々の生活様式の変化によって、人々の価値観にも変容が生じ、複雑化・多様化しております。また、ディープラーニングの発展を背景としたAIの急激な進歩等、技術革新(デジタルディスラプションを含みます。)が目まぐるしく生じ、当該技術を活用した新たな価値(新たなサービス)が次々と世に生み出されております。これに対して当社グループの商品・サービス(例えば、オフィス・商業施設・賃貸住宅等の賃貸用不動産や開発した分譲住宅等の販売不動産)が、お客さまのニーズの変化に適応したものとなっていない場合、賃貸稼働率の低下や賃料の減少、販売売上の減少等によって経営成績及び財務状況に悪影響を及ぼす、等のリスクが想定されます。

●リスク対策

 当社グループのデジタルトランスフォーメーション(DX)は、デジタルよりもトランスフォーメーションに重きを置き、企業全体の変革を実現するものとしています。デジタル技術、データの利活用は不可欠であるとの認識に基づき、(ア)当社グループの従業員にデジタルスキルの習得機会を提供し、データの分析及び利活用を高度におこなうことのできる人財を育成していくこと、ならびに、(イ)特定の専門家、分析担当者だけでなく、あらゆる従業員がデータを理解したうえで効果的な施策を実行できるようにしていくこと(データの民主化)、の両軸で、お客さまに対して、これまでにない「新しい体験価値」を創出していくことで、リスクの発生可能性を低減いたします。また、データに基づく経営判断をおこない、お客さまのニーズに見合ったサービス変革を継続的に実行するとともに、業務プロセスも効率化することにより、当社グループらしい不動産開発、生活者に選ばれる沿線、お客さま・オーナーさまに選ばれるホテル、など競争優位性の高い状態を実現することで、リスクの発生可能性を低減いたします。

 

 

 

⑤気候変動に関するリスク

発生可能性:高

影響度:中

●リスクの内容

(移行リスク)

 地球環境バランスの崩壊と、世界的な資源循環の要請がメガトレンドとして存在しているところ、事業者にとっては、社会や投資者等のステークホルダーから、温室効果ガスの削減を含む環境への取組みが要請され、その取組みが重視・評価される時代となっております。そのため、例えば、(ア)気候変動を考慮した企業ニーズや消費動向の変化(例:不動産需要の変化等)をとらえきれず、お客さま満足度を低下させ、事業機会を逸失する、(イ)当社グループによる取組み不足により、当社グループのイメージが低下し、当社グループ各社による事業機会を逸失する、等のリスクが想定されます。

(物理的リスク)

 また、(ウ)豪雨・土砂災害等の異常気象の激甚化による運休・休業により売上が減少し、又は、建物・設備等の改修コストが増加する等の要因により当社グループの業績及び財務状況に悪影響を及ぼす、(エ)夏期の気温上昇による出控えや、冬期の降雪量の減少等によるスキー客の減少等を要因として売上が減少し、当社グループの業績及び財務状況に悪影響を及ぼす、等のリスクも想定されます。

●リスク対策

 当社グループは、新・長期戦略におけるマテリアリティ(重要テーマ)として「脱炭素・資源有効活用」を設定し、環境負荷低減目標及び資産・ブランド価値向上指標を非財務KPIとして設定しております。具体的には、CO₂排出量を2050年度ネットゼロにする、延床面積30,000㎡以上のオフィスビルにおける環境認証(CASBEE、DBJ等)の取得率100%、等の目標を掲げ、例えば、省エネ車両や設備の導入による使用エネルギーの削減、太陽光発電等再生可能エネルギーの導入、等の具体的施策を検討・実施しております。これらの取組みにより、移行リスクの発生可能性を低減いたします。

 また、建物・設備等の改修及び浸水・防止対策その他各種メンテナンスの徹底、ならびに総合復旧訓練等の異常時訓練の実施を通じた対応力の強化により、物理的リスクによってお客さまの安全が脅かされることのないよう、最大限の努力をおこなっております。さらに、売上の減少や改修コストの増加が業績に大きな悪影響を及ぼすことがないよう事業ポートフォリオマネジメント等を通じて、物理的リスクの顕在化による影響を低減いたします。

 

 

⑥自然災害・感染症・地政学的リスク等に関するリスク

発生可能性:中

影響度:大

●リスクの内容

 当社グループの事業においては、地震、津波及び台風等の自然災害、新型インフルエンザ等の感染症、ならびに戦争及びテロ等の地政学的リスク等を要因として、(ア)生活者、観光利用者の動きに影響が生じ、都市交通・沿線事業やホテル・レジャー事業等において売上高が減少する、(イ)事業拠点が1か所(主に首都圏)に集中することで、自然災害又は地政学的リスク等が発生した際に甚大な影響を受け全社的に事業継続が困難となる可能性がある、等のリスクが想定されます。

●リスク対策

 前・中期経営計画において実施したグループ再編以降、株式会社西武・プリンスホテルズワールドワイド(SPW)はホテル出店においてはマネジメントコントラクト(以下、「MC」といいます。)受託によることを基本とすることでリスク顕在化による影響を低減しております。

 また、不動産回転型ビジネスの展開により、安定利益(開発・賃貸業)と売却利益(投資運用業)のバランスをとることにより、リスク顕在化による影響を低減いたします。さらに、運輸安全マネジメント体制をはじめとする都市交通・沿線事業においては、沿線自治体とも連携し、防災体制を強化しております。

 気候変動に対するリスクマネジメントとの連動・一体性も意識しながら、リスクが顕在化した場合であっても、お客さまや従業員の安全性が保たれるとともに、事業への影響が極小化できている状態を目指します。

 

 

⑦旅行・観光消費動向に関するリスク

発生可能性:中

影響度:大

●リスクの内容

(国内情勢の変化)

 国内景気の悪化による旅行・観光消費の冷え込みによって、日本国内における旅行・観光客の減少が生じ、売上(ホテル・レジャー事業、都市交通・沿線事業の定期外収入等)が減少する可能性があります。

(海外情勢の変化)

 海外進出先での政治的混乱や、外交的問題による日本との関係悪化により、現地での事業継続への支障もしくは事業の中断・停止、又は、日本への送客数の減少や送客の停止等が生じ、特にホテル・レジャー事業において業績への悪影響やホテル数拡大の遅延が生じる可能性があります。

●リスク対策

 ホテルのグローバル展開など単一市場に依存しないマーケティングや旅客誘致プロモーション活動の強化、国内施設・海外施設間の相互送客、リスクを機とした新たな商品開発、及びグループ共通の会員サービスやマーケティング活動の強化等に加え、前・中期経営計画期間ではアセットライトをテーマとしたビジネスモデルの変革により企業体質を進化させるなど、リスク顕在化による影響を低減しております。

 さらに、当社グループのマテリアリティ(重要テーマ)である「五感を揺さぶる体験創造」に従い、あらゆる場面で楽しみと感動を体験できる設計やMICE・リゾート等の独自の強みの発揮を通じて、「日本をオリジンとしたグローバルホテルチェーン」として差別化をはかり、グループのロイヤルカスタマーを育成し、リスク顕在化による影響を低減いたします。

 

 

⑧収支構造・金利に関するリスク

発生可能性:中

影響度:大

●リスクの内容

(収支構造)

 当社グループの事業においては、営業コストの相当部分が、人件費、減価償却費等の固定費で構成されているため、営業収益の比較的小幅な減少であっても、営業利益に大きな影響を及ぼすリスクがあります。特に、社会全体として賃上げ気運が高まっており、当社グループにおいても人件費は今後も上昇トレンドとなることが予想されます。

(金利・有利子負債)

 当社グループは、鉄道業をはじめ、継続して多額の設備投資を必要とする事業をおこなっており、市場金利の上昇は、既存の有利子負債の残高に係る支払利息及び新規の資金調達に係る調達コストの増加のほか、不動産購入需要の停滞による分譲収益減少や不動産価値の低下を招くおそれもあります。

●リスク対策

 損益分岐点が高い収支構造の問題については、前掲のホテルのМC受託によることを基本とするネットワーク拡大や不動産回転型ビジネスの展開による資産効率性の向上に加え、当社グループのシェアードサービス会社である株式会社西武プロセスイノベーションも活用したコーポレート業務のスマート化を進めるとともに、各事業のオペレーションにおいてもデジタルを活用した効率化を進めることで、リスクの発生可能性を低減いたします。

 また、市場金利の上昇に対しては、大規模開発や新規物件の取得など一定程度のレバレッジをかけつつも流動化の実施及び設備投資の厳選等、ならびに資金調達先・手法の多様化を通じてBSマネジメントを強化しリスク顕在化による影響を低減(分散)するほか、不動産取引市場におけるキャップレートの変動を注視して事業計画の立案やスケジュール策定を実施することで、リスク顕在化による影響を低減いたします。

 

(4) その他の主要なリスクの内容及びリスク対策の概要

 

⑨経済情勢に関するリスク

発生可能性:中

影響度:中

●リスクの内容

(燃料費、原材料費等の不足、高騰)

 気候変動や自然災害に起因する原材料の不足(原材料費の高騰)や、原油価格高騰に起因する燃料費の増加等の外部的な要因により燃料費、原材料費等が増加することにより、業績に悪影響を及ぼし、又は、事業活動の継続が困難となる可能性があります。

(為替変動)

 為替価格が当初予定されていた価格と相違することにより、日本円表示している連結財務諸表や、外貨建て資産・負債に損失が発生し、業績及び財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。

(株式市場の変動)

 株式市場の変動によって、当社グループが保有する投資有価証券の価値が変動し、損失を被ることで、業績への打撃、株価下落をもたらす可能性があります。

(退職給付費用・退職給付債務)

 当社グループの従業員の退職給付費用及び債務は、割引率や年金資産の長期期待運用収益率等の数理計算で設定される前提条件に基づいて算出されております。実際の結果が前提条件と相違した場合又は前提条件が変更された場合は、当社グループの経営成績及び財務状況に影響を与える可能性があります。

●リスク対策

 経済情勢・市況を常時把握し、大幅な情勢の変化の際には、迅速なグループ方針の決定と正確なグループ展開に努めるとともに、効率的な事業運営体制を構築することでリスク顕在化による影響を低減しております。今後も、経済情勢をあらかじめ踏まえたうえでの計画策定や、変化をとらえた機動的な対応等により、リスクコントロールをおこなってまいります。

 

 

⑩安全・安心に関するリスク

発生可能性:低

影響度:大

●リスクの内容

(事業用資産等の管理、サービスの品質管理、安全・事故防止活動)

 事業用資産等もしくはサービスの安全面・品質面等の管理プロセス、又は安全・事故防止プロセスの不備・欠陥等により、事故等が未然に防止できず、お客さま、従業員等に重大な損失を被らせ、又は行政機関から業務停止命令や改善命令を受けること等を通じて、社会的信用の失墜、イメージダウン、損害賠償義務の発生等を招く可能性があります。

(食の安全・安心の不備)

 食中毒の発生、異物の混入、表示と異なる食材の提供、アレルギー食材の提供、宗教上の理由により食べられない食材の提供等により、お客さまの心身に悪影響・損失を生じさせ、社会的信用の失墜やインバウンド含む既存のお客さま及び未来のお客さまの逸失を招く可能性があります。

●リスク対策

 当社グループは「安全で快適なサービス」の提供をグループ理念に掲げ、常に、「安全」を基本にすべての事業・サービスを推進することを宣言しております。

 当社グループの事業においては、「安全・安心」を最重要課題と認識し、運輸安全マネジメント体制をはじめとする都市交通・沿線事業における安全性向上の取組みや運輸マネジメント体制の整備・運用、ホテル・レジャー事業における食の安全確保の施策の実行、施設の安全対策の実施等安全管理には万全の注意を払っております。このような日頃のマネジメントにより、お客さまの生命・身体に重大な影響を与える事故等を決して起こさない決意をもって、引き続き安全管理体制の整備、安全監査及び安全教育・訓練等の各種プロセスを着実に遂行することで、継続的にリスクの発生可能性及びリスク顕在化による影響を低減いたします。

 

 

⑪情報システム・情報管理に関するリスク

発生可能性:低

影響度:大

●リスクの内容

(物理的要因による情報漏洩・改竄)

 万一、個人情報の流出等の問題が発生した場合、当社グループへの損害賠償請求や当社グループの信用の低下により当社グループの業績及び財務状況に影響を与える可能性があります。

(情報システム・ネットワークダウン、データの損傷・消失)

 事故・災害、人為的ミス等により情報システム機能に重大な障害が発生した場合、又は、他の鉄道事業者、鉄道関連サービス提供業者等他社のシステム障害による影響を受けた場合、当社グループの業務運営に影響を与え、営業収益の減少又は対策費用の発生により、当社グループの業績及び財務状況に影響を与える可能性があります。

●リスク対策

 当社グループでは、事業上のあらゆる場面において、情報システムが不可欠なものになってきたことを強く認識しており、障害(攻撃)対応・復旧への訓練の実施、高可用なシステム導入を実現するプロジェクト管理及び権限棚卸、ならびに協力企業の安全性確認等の対策をおこなっております。また、(ア)個人情報を含む情報管理の適正に向けた各社内規程に基づく体制整備と運用の確保、(イ)情報システムへのアクセスを適切に管理することによる情報への不正アクセスの防止、及び、故意による情報の持出しを防ぐための情報記憶媒体の利用制限やアプリケーション・システムのログ監視等の技術的な対応、ならびに、(ウ)eラーニング等による研修等を通じた従業員の意識醸成にも努めており、これらの対策を通じて外的要因によるリスク及び内的要因によるリスク双方の発生可能性を低減しております。今後はこれらの取組みに加え、協力企業と連携したオペレーションの改善や人財マネジメント、さらには情報システムの最適化をはかっていくことにより、技術革新が目覚ましい社会に適応する形でリスクコントロールをおこなってまいります。

 

 

⑫協力企業との取引・共創に関するリスク

発生可能性:中

影響度:小

●リスクの内容

(与信管理・債権管理の不備、賃貸収入の減少)

 協力企業の資金繰りの悪化等により代金の回収等に支障を来した場合等、当社グループの業績及び財務状況に影響を与える可能性があります。

(特定の協力企業への依存)

 特定の協力企業へ取引が集中していることにより、当該協力企業への依存度が高い場合、協力企業における何らかの障害(倒産・災害等)や協力企業の意向に当社グループの事業活動が左右され、追加費用の発生、事業活動、業績及び財務状況に悪影響を与える可能性があります。

(協力企業における人権、コンプライアンス上の問題等の発生)

 協力企業が人権、コンプライアンス等において社会からの要請を果たすことができなかった場合等は、当社グループの業績及び財務状況に影響を与える可能性があります。

(協力企業の選定基準の不備)

 当社グループが新・長期戦略に基づき力強く成長していくにあたっては、どの事業においてもオープンマインドを持ち、協力企業との新たな価値の共創やM&Aによる当社グループにない企業文化の取込み・多様化等に取り組んでまいりたいと考えております。その中で、協力企業(事業提携のパートナー、購買先、外部委託先等)の選定上の基準、取引内容及び取引の正当性を評価する基準が存在せず、又は不適切な基準である場合、協力企業との価値共創や企業文化の取込み・多様化が困難となり、ひいては当社グループの事業機会の逸失や当社グループのイメージダウンを招くおそれがあります。

●リスク対策

 協力企業への管理・監督、業務委託管理体制の整備や「西武グループ人権方針」の開示をおこない理解を求めることにより、協力企業が当社又はお客さまへ提供するサービスがコンプライアンスを遵守し、確実に高い基準を満たしたものになるように努め、リスクの発生可能性及びリスク顕在化による影響を低減しております。また、特定の協力企業に依存することなく、様々な協力企業と多面的な協力を実施していくとともに、協力企業の選定やモニタリングにあたっては、与信管理、債権管理といった基本的な管理のみならず、良好なリレーションから取得される情報等も考慮した深度ある検証を多面的な観点から実施することで、リスクの発生可能性及びリスク顕在化による影響を低減いたします。

 

 

⑬法的規制・コンプライアンス等に関するリスク

発生可能性:低

影響度:中

●リスクの内容

(法的規制・環境規制)

 当社グループの事業活動に関係する法的規制は業法、環境規制、会計基準、税制等をはじめとして多岐にわたるところ、これらの各法的規制への違反が生じると、刑事罰、入札の指名停止等の行政上の措置、損害賠償義務の負担、及びイメージダウン等を招く可能性があります。

 また、現在の規制に重要な変更がおこなわれた場合や新たな規制が設けられた場合には、規制を遵守するために必要な費用が増加する可能性があり、規制に対応できなかった場合は、当社グループの活動が制限される等、当社グループの業績及び財務状況に影響を与える可能性があります。

(重要な訴訟等)

 通常の業務過程において、契約を巡る紛争、損害賠償、労働紛争、環境汚染等に関連して第三者から訴訟その他の法的手段を提起されたり、政府から調査を受けたりする可能性があります。法的手続対応の負担に加え、仮に当社グループに不利に判決、決定等が下された場合、当社グループの業績及び財務状況に影響を与える可能性があります。

●リスク対策

 契約締結時におけるリーガルチェックの徹底や、講習会の実施等による法務知識の向上、顧問弁護士と連携した適切な対応をおこなっております。今後も、各法的規制を遵守するために、法規制の遵守体制を徹底し、また、法令改正や各種規制に関する情報収集及び社内教育の実施をおこなうように努めることで、リスクの発生可能性及び顕在化による影響を低減いたします。

 

 

⑭ブランド・風評に関するリスク

発生可能性:低

影響度:中

●リスクの内容

(第三者による西武ブランドの使用)

 当社グループのブランドと同一又は類似のブランドを使用する第三者も存在するため、これらのブランドイメージを損なうような第三者の行為・言動等が間接的に当社グループの評判を損なう可能性があります。

(風評)

 上記いずれかの当社における主要なリスクが現実となった場合を含め、当社グループのブランドイメージが損なわれた場合には、当社グループの業績及び財務状況に影響を与える可能性があります。

●リスク対策

 ブランドマネジメントの実行、適切な情報管理、開示体制の整備、及びCS・ES向上施策の実行等により、リスクの発生可能性及びリスク顕在化による影響を低減しております。

 

配当政策

3【配当政策】

 当社の剰余金の配当は、中間配当及び期末配当の年2回を基本的な方針としております。配当の

決定機関は、中間配当は取締役会、期末配当は株主総会であります。

 当事業年度の期末配当金につきましては、事業環境を踏まえた足もとの業績も回復してきていること等を総合的に勘案し、1株当たりの普通配当を12.5円(中間配当金12.5円を含む年間配当金25円)としております。

 2024年5月9日に開示をいたしました「西武グループ長期戦略2035」における財務戦略では、再開発等への成長投資を優先しつつも、今回計画以降は、2025年3月期の配当予想の1株当たり配当金を30円とし、DOE2.0%を下限とする累進配当を導入することで、安定的な配当とあわせ、収益向上を通じた増配を実現していくことを基本方針としております。また、バランスシートの状況を踏まえ、自己株式の取得も機動的におこなってまいります。

 翌事業年度の年間配当につきましては、2025年3月期連結業績予想や資金の状況等を総合的に勘案し、1株当たり30円(中間配当金15円、期末配当金15円)を計画しております。

 なお、当社は、取締役会の決議によって、毎年9月30日を基準日として会社法第454条第5項に

規定する中間配当をおこなうことができる旨を定款に定めております。

 

(注) 基準日が当事業年度に属する剰余金の配当は、以下のとおりであります。

決議年月日

配当金の総額

(百万円)

1株当たり配当額

(円)

2023年11月9日

4,040

12.50

取締役会決議

2024年6月21日

4,040

12.50

定時株主総会決議