2024年3月期有価証券報告書より

リスク

3【事業等のリスク】

 東京海上グループは、「リスク」、「資本」および「リターン」の関係を常に意識し、リスク対比での健全性と収益性を両立しながら高いROEをめざす「リスクベース経営(ERM:Enterprise Risk Management)」を行っています。

 

○リスクベース経営(ERM)のイメージ図

 

 具体的には、リスクアペタイト・フレームワークを起点に、事業計画の策定および検証ならびに事業計画に基づいた資本配分計画を決定するERMサイクルにより「リスク」、「資本」および「リターン」を適切にコントロールし、企業価値の持続的な拡大をめざしています。

 

○ERMサイクルのイメージ図

(注)1.環境変化等により新たに現れるリスクであり、従来リスクとして認識されていないものおよびリスクの程度が著しく高まったものをいいます。

 

2.財務の健全性、業務継続性等に極めて大きな影響を及ぼすリスクをいいます。具体的には、エマージングリスクおよび前事業年度のグループの重要なリスクにつき、影響度(経済的影響、業務継続への影響およびレピュテーションへの影響で評価し、最も大きいものを採用)ならびに頻度・蓋然性を評価し、以下の5×5のマトリクスを用いて特定しています。

3.重要なリスクについて、対応策の策定(Plan)、実行(Do)、振返り(Check)および改善(Act)を行います。

 

(1)定性的リスク管理

 事業運営を行うなかで直面する様々なリスクを網羅的に把握して対応するため、エマージングリスクの洗出しならびに重要なリスクの特定、評価およびPDCAを行い、毎年取締役会に報告しています。

 当社ではこのようなリスク管理を実施してきましたが、東京海上日動で発生した一連の不適正事案を踏まえ、「重要なリスク」の「法令・規制への抵触/コンダクトリスク」に競争法に関するシナリオを加え、対応策を策定しました。

 

○重要なリスクの一覧

重要なリスク/シナリオ

対応例

①経済・金融危機

〇リーマンショック級の世界金融危機、地政学リスクや大規模災害等に起因する金融・資本市場の混乱等により、東京海上グループの保有資産の価値が下落する。

〇政府への信認毀損による日本国債暴落、ハイパーインフレーション等により、東京海上グループの保有資産の価値が下落する。

<経済的影響への対応>

・地政学リスク等の市場への影響を調査する。

・信用リスク集積管理等により、エクスポージャーをコントロールする。

・ストレステストを行い、資本十分性や資金流動性を確認する。

・金融危機のアクションプランを整備する。

②巨大地震

〇首都直下地震、南海トラフ巨大地震が発生し、人的・物的被害が甚大となり、東京海上グループの事業を含む社会や経済活動が停滞するとともに保険金支払が多額になる。

<経済的影響への対応>

・リスクの集積を含めて適切にリスクを評価し、お客様のニーズに沿った商品の開発を行いつつ、リスクに見合った引受け、リスク分散および再保険手配を行うことで利益の安定化を図る。

・②、③および⑤については、ストレステストを行い、資本十分性や資金流動性を確認する。

 

<事業継続への影響やレピュテーションへの対応>

・危機管理態勢(後記(3)参照)や事業継続計画等を整備し、有事訓練により実効性を確認する。

・⑥については、サイバーセキュリティ態勢も整備し、有事訓練により実効性を確認する。

③巨大風水災(含む気候関連物理的リスク)

〇巨大台風や集中豪雨が発生し、物的被害が甚大となり、東京海上グループの事業を含む社会や経済活動が停滞するとともに保険金支払が多額になる。

④火山噴火

〇富士山噴火等が発生し、降灰等により物的被害が甚大となり、東京海上グループの事業を含む社会や経済活動が停滞するとともに保険金支払が多額になる。

⑤新ウイルスのまん延

〇致死率の高い感染症がまん延し、保険金支払が多額になる。

⑥サイバーリスク

〇多くの東京海上グループの顧客やそのサプライチェーンがサイバー攻撃を受け、保険金支払が多額になる。

〇東京海上グループのシステムがサイバー攻撃を受け、重要情報の漏えいや事業活動の停滞が発生する。

⑦地政学リスク

○国家間の対立が軍事衝突に発展し、人的・物的被害が甚大となり、東京海上グループの事業を含む社会や経済活動が停滞する。

<事業継続への影響やレピュテーションへの対応>

・危機管理態勢(後記(3)参照)や事業継続計画等を整備し、有事訓練により実効性を確認する。
(経済的影響への対応は上記①に記載)

⑧インフレーション

〇原材料費の高騰や世界的な物価の急激な上昇等により、保険金支払単価が上昇し、リスクに見合った商品改定や再保険調達ができず保険引受利益が減少する。

<経済的影響への対応>

・インフレーションの保険商品への影響を分析し、リスクに見合った商品改定や引受けを行う。

⑨法令・規制への抵触/コンダクトリスク

〇競争法、個人情報保護、マネー・ローンダリング防止、米中対立やウクライナ戦争に関連した経済制裁強化等に関する規制等に抵触し、罰金等を科されるとともにレピュテーションを毀損する。

〇業界・企業慣行と世間の常識が乖離することや、適切な企業文化の醸成が不足すること等により、東京海上グループの取組みが社会から不適切とみなされ、レピュテーションを毀損する。

<事業継続への影響やレピュテーションへの対応>

・東京海上日動における独占禁止法に抵触すると考えられる行為等が認められたことを踏まえ、グローバル施策導入の検討を進める。

・国内外の社会環境、行政機関の動向、法令規制改正等を把握し、必要な対策を講じる。

・従業員の意識や行動に関する調査を行い、好取組事例の収集や展開を通じて東京海上グループの取組みを改善する。

⑩破壊的イノベーション

〇デジタルトランスフォーメーション、革新的な新規参入者等により、産業構造が大きく転換するようなイノベーションが発生して東京海上グループの競争優位性が失われ、収入保険料や利益が大きく減少する。

<経済的影響への対応>

・デジタルトランスフォーメーションの基本戦略推進とプロジェクトの実行を通じて、保険事業の競争優位性を確保する。

・保険事業と親和性の高い領域を中心とした新規事業を展開する。

⑪AI/データガバナンスの不足

〇AIやデータの利活用を進めるなかで、脆弱性・誤情報の出力や倫理上の問題の課題等を適切に管理できないことにより、訴訟の発生やレピュテーション毀損が発生する。または、生産的な事業活動が阻害される。

<事業継続への影響やレピュテーションへの対応>

・AIやデータの利活用に関するグループ共通のルールの整備等を通じて、当社やグループ会社の態勢整備を行う。

 

○エマージングリスクの例

エマージングリスク/シナリオ

対応例

①脱炭素・自然共生社会への不適切な対応
 (気候・自然関連移行リスク)

〇脱炭素・自然共生社会への移行に乗り遅れた投資先企業の企業価値が下落し、東京海上グループの保有資産の価値も下落する。

〇脱炭素・自然共生社会への東京海上グループの取組みが社会から不適切とみなされ、レピュテーションを毀損する。

・「環境および社会リスクに対処する東京海上グループポリシー」を表明し、引受禁止留意事業を特定している。

・新たな脱炭素技術に関連する保険商品・リスクコンサルティングサービスの開発を加速している。

・従来の情報に加え、非財務情報についても投資判断に考慮する「ESGインテグレーション」を実施している。

②地球温暖化、自然資本・生物多様性の喪失
 (気候・自然関連物理的リスク)

〇地球温暖化や自然資本・生物多様性の喪失の進行により自然災害の激甚化等が進み、短期的にも長期的にも保険金支払が増大する。

・自然災害リスク評価の高度化に向け、自然災害に関するリスク計測モデル精緻化や、気候変動の影響を評価する手法の開発等に取り組んでいる。

・事業の自然への依存や影響について、研究・分析に取り組んでいる。

③ビジネスパートナーリスク

〇企業活動に対するバリューチェーン全体を見渡した責任・期待が高まっているなか、業務提携・委託・協業先において、不祥事や事故が発生し、当社の事業継続やレピュテーションに重大な影響が生じる。

・「責任ある調達のためのガイドライン」を定め、基本的な考え方をグループ内へ周知したうえで、ビジネスパートナーにも取組みへの協力を促している。

・外部委託先やビジネスパートナー選定における経済安全保障に関する観点を整理のうえ、各社での取組みを推進している。

④グローバルな人権尊重対応の遅れ

〇人権尊重に関する東京海上グループの取組みが社会から不適切とみなされ、レピュテーションを毀損する。

・「人権基本方針」を定め、バリューチェーンを含むあらゆる事業活動における人権尊重を推進する姿勢を示すとともに、ビジネスパートナーに対しても本方針の実践を促している。

・保険引受・投融資先における人権尊重を推進する取組みとして、特定セクターにおける人権リスクの予防・軽減を評価する「環境・社会リスクへの対応方針」を定め、対外公表している。

・当社役職員向けのホットラインに加えて、外部ステークホルダー向けのホットラインを設置している。

 

 

(2)定量的リスク管理

 格付けの維持および倒産の防止を目的として、保有しているリスク対比で実質純資産が十分な水準にあることを多角的に検証し、財務の健全性が確保されていることを、取締役会において確認しています。

 具体的には、リスクをAA格相当の信頼水準である99.95%バリューアットリスク(VaR)(注)1で定量評価し、実質純資産(注)2をリスク量で除したエコノミック・ソルベンシー・レシオ(以下「ESR」といいます)の水準により、資本の十分性を確認するとともに、事業投資機会や今後の市場環境の見通し等を総合的に勘案して資本政策を決定しています。

 東京海上グループのESRのターゲットレンジは100~140%ですが、2024年3月末時点におけるESRは140%となり、資本が適切な水準にあることを確認しています。

また、重要なリスクのうち、国内外の経済危機、金融・資本市場の混乱、日本国債への信認毀損、巨大地震、巨大風水災および新ウイルスのまん延等の経済的損失が極めて大きいと想定されるシナリオならびに複数の重要なリスクが同時期に発現するシナリオに基づくストレステストも実施し、資本十分性および資金流動性に問題がないことを別途確認しています。

(注)1.将来の一定期間のうちに、一定の確率の範囲内で被る可能性のある最大損失額のことをいいます。99.95%VaRとは、今後1年間の損失が99.95%の確率でその額以内に収まる金額水準です。

2.財務会計上の連結純資産に、資産と負債を時価評価し、異常危険準備金の加算やのれんの控除等の調整を加えて算出します。

 

○ESRの状況

 

(3)危機管理

 定性的リスク管理および定量的リスク管理を行っていても、全てのリスクを完全にコントロールすることは困難であり、また、自然災害のように発生を抑えることが不可能なリスクも存在します。

 そのため、有事に際して被る経済的損失等を極小化し、迅速に通常業務へ復旧するため、危機管理態勢や緊急事態時アクション等を整備しています。

 また、当社はグループ会社に対し支援・指示・指導を行い、グループ会社は当社に対し報告・連絡・相談を行うことで、グループ会社においても平時から危機管理態勢や緊急事態時アクション等の整備を行うとともに、緊急事態時においては復旧や事業継続を迅速・的確に対応できるよう努めています。

 さらに、自然災害やサイバー攻撃等、緊急事態(注)となり得る事象を想定した模擬訓練を実施し、緊急事態時の実践力・応用力も高めています。

(注)東京海上グループの各社と顧客・代理店等の利害関係者との関係に重大な影響が生じる事態または東京海上グループの各社の業務に著しい支障が生じると判断される事態です。具体的には、自然災害、パンデミック、システム障害、サイバー攻撃、重要情報の漏えい、重大な法令違反および業務停止命令等、重要なリスクの発現やそれに準じた事態の発生を想定しています。

 

○東京海上グループの危機管理態勢

 

 なお、本項の記載には将来に関する事項が含まれていますが、当該事項は本有価証券報告書提出日現在において判断したものです。

配当政策

3【配当政策】

 当社は、業績および今後の経営環境等を勘案し、グループの事業展開のための基盤強化を図りつつ、配当を基本として株主還元の充実に努める方針としています。また、当社は、中間配当と期末配当の年2回の剰余金の配当を行う方針としています。

 これらの剰余金の配当の決定機関は、期末配当については株主総会、中間配当については取締役会です。

 2023年度の期末配当については、この方針のもと、諸般の事情を総合的に勘案し、1株につき62.5円とすることを2024年6月24日開催予定の第22回定時株主総会で決議する予定です。また、中間配当として1株につき60.5円お支払いしています。

 また、内部留保資金については、事業投資等に活用してまいります。

 2023年度に係る剰余金の配当は以下のとおりです。

決議年月日

配当金の総額

(百万円)

1株当たり配当額

(円)

2023年11月17日

119,627

60.5

取締役会決議

2024年6月24日

123,409

62.5

定時株主総会決議(予定)

 

 当社は、取締役会の決議により、毎年9月30日の最終の株主名簿に記載または記録された株主または登録質権者に対し、会社法第454条第5項の規定による剰余金の配当を行うことができる旨定款に定めています。