2023年12月期有価証券報告書より

リスク

3【事業等のリスク】

 以下において、当社の事業展開その他に関するリスク要因となる可能性があると考えられる主な事項を記載しております。当社は、これらのリスク発生の可能性を認識した上で、発生の回避及び発生した場合の対応に努める方針でありますが、リスクの発生を全て回避できる保証はありません。また、以下の記載は当社に関連するリスクすべてを網羅するものではありませんのでご留意ください。

 なお、本項中の記載内容については、将来に関する事項は本書提出日現在において当社が判断したものであります。

 

① 再生医療支援事業・細胞シート再生医療事業の双方に共通するリスク

(a) 知的財産権に関するリスク

 当社は研究開発活動等に必要な様々な知的財産権を保有しており、これらは当社所有の権利・ノウハウであるか、あるいは適法に実施許諾を受けた権利・ノウハウであると認識しております。現在当社では事業に必要な特許を原則として全て自社で確保する方針を採用しており、例えば各再生医療パイプラインに関する基本的な特許については当社が出願人となって既に出願しております。さらに順次周辺特許の出願等を通じた特許網の拡充にも取り組んでおりますが、一方で出願中の特許については登録に至らない可能性が存在します。また重要なノウハウについては秘密保持契約を課すなどして管理しておりますが、第三者が独自に同様又は類似のノウハウの開発・知得に成功する可能性は否定できません。出願中特許が成立しない場合、事業に必要な特許が何らかの理由で確保できない場合、あるいは当社ノウハウと同様あるいは類似のノウハウを第三者が開発又は知得した場合、当社の事業戦略や経営成績及び外部企業との提携関係に重大な影響を及ぼす可能性があります。

 このような可能性が何らかの形で現実化した場合には当社の財政状態と経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。

 なお、当社の重要な知的財産権については定期的に関連特許出願状況等をチェックしており、重大な問題が生じる前に逸早く対策を打つことができるよう体制の整備を図っております。さらに、継続的に新規特許を出願することによって、当社特許網の拡充に努めております。

 

(b) 技術革新に伴う競合リスク

 当社は細胞シート工学を基盤技術として細胞シート再生医療等製品・再生医療支援製品の研究開発を進めております。再生医療事業に本格参入している企業はまだ比較的少ないものの、研究開発を進めながら参入を検討している潜在的競合相手は少なくないと想定しております。さらに、本業界における技術の進歩は速く、後発参入製品の機能は先発製品の機能を少なからず上回り、競争が激化することが容易に想定されます。それら競合相手の中には、技術力、マーケティング力、財務状況等において当社と比較して優位にあると思われる企業もあり、製品機能だけでなく、製造能力や生産性及びマーケティング・販売力などで当社を上回る可能性が考えられます。このため、当社は早期の事業化・収益化を目指しておりますが、これら競合相手との競争においては、計画どおりの収益を上げることができない可能性があります。

 

(c) 製造物責任に関するリスク

 医薬品・医療機器・再生医療等製品の設計、開発、製造及び販売には、製造物責任賠償のリスクが内在しております。当社は細胞培養器材について製造物責任保険を一部付保しておりますが、最終的に当社が負担すべき賠償額を全額カバーできるとは限りません。従いまして、当社製品の欠陥等による事故が発生した場合、当社が開発した細胞シート再生医療等製品が患者の健康被害を引き起こした場合、又は当社製品の治験、製造、人道的使用に関する説明、営業もしくは販売において不適当な点が発見された場合には、製造物責任を負う可能性があり、当社の事業及び財務状況に重大な悪影響を及ぼす可能性があります。また、このような事例において結果として当社の過失が否定されたとしても、当社に対する製造物責任に基づく損害賠償請求等がなされること自体によるネガティブ・イメージにより、当社製品に対する信頼に悪影響が生じ、当社の事業に影響を与える可能性があります。

 

(d) 研究開発活動に由来するリスク

 当社は研究開発型企業として、産学連携のもと、大学との共同研究や治験を進めております。また当社が手掛けている細胞シート再生医療事業及び再生医療支援事業そのものが新しいため、社内のほぼすべての部署が直接的又は間接的に研究開発に深く関与しており事業予算に占める研究開発費は多額なものとなっております。

 しかしながら、研究開発活動が計画どおりに進む保証はなく、当該研究開発の成果が当社の予想どおりに上がらず、当社の事業戦略、業績及び財政状態に影響を与える可能性があります。

 当社が進めている細胞シート再生医療事業及び再生医療支援事業は、製品開発に長期間を要し、かつ、細胞シート再生医療事業での治験承認や製造販売承認等の薬事承認プロセスにも不確定要素が多いため、事業計画における研究開発期間が想定以上に延びた場合等に、研究開発費の負担増が当社業績を圧迫するなど経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。

 

(e) ビジネスモデルに由来するリスク

ⅰ)大学及び研究機関等との関係に由来するリスク

 当社は、東京女子医科大学・東海大学を始めとする大学や他の研究機関との連携を通じて、研究開発活動や事業基盤の強化を行っております。具体的には、当社の事業に関し、大学教員と顧問契約を締結して技術指導を受ける、または大学・研究機関等と共同研究を行うなどしております。しかしながら、大学教員と企業との関係は法令や各大学の規程等に影響を受ける可能性があり、また国立大学の独立行政法人化により大学の知的財産権に対する意識も変化しつつあります。従いまして、当社の希望どおりに共同研究や権利の譲受を行うことができない可能性があり、かかる場合には当社の事業戦略や経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。

 

ⅱ)提携に関するリスク

 当社の事業計画には、外部企業との提携関係を前提にした部分が存在します。前提となっている提携関係には既に契約済みのものと今後契約することを想定したものの両方がありますが、既に契約済みの提携については提携先の都合による契約終了や契約条件変更のリスクがあり、今後契約することを想定した提携については想定どおりの時期・条件で契約できないリスクが存在します。いずれの場合が現実化した場合でも、当社の事業戦略や経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。

 

② 再生医療支援事業に関するリスク

 現在当社は、販売代理店を通じて日本国内・海外双方でUpCellを始めとする各種細胞培養器材を販売しております。当社の再生医療支援事業の製品は多くはこれまでに例をみない全く新しい種類の製品であり、付加価値が大きい分、価格も高く設定されております。従いまして、今後必ずしも当社計画どおり販売数量が伸びるとは限らず、また販売促進などの理由から価格を下げる戦略を採用した結果収益性が低下する可能性も否定できません。また当社では、温度応答性細胞培養器材の生産能力の大幅増強や生産コストの引き下げ、さらには新しい温度応答性細胞培養器材の研究開発に取り組んでおりますが、これらの取り組みが実際に当社の事業計画や経営成績に与えるインパクトについては現時点では定かではありません。

 

③ 細胞シート再生医療事業に関するリスク

(a) 先端医療に関する事業であることに由来するリスク

 まず一般論として、再生医療は世界的に見てまだ本格的な普及段階に至っておらず、特に日本では最近まで主に特定の医師・医療機関が用いる高度な医療技術として比較的限定された範囲での臨床応用を中心として行われてきた経緯があります。

 こういった現状の背景には、最先端の医療・医薬品に特有の課題やリスクが存在します。まず再生医療の基盤となる学問や技術が急速な進歩を遂げている中で再生医療等製品そのものに関する研究開発も非常に速いスピードで進んでおり、日々新しい研究開発成果や安全性・有効性に関する知見が生まれて来ています。当社の基盤技術である細胞シート工学は現時点では新規性の高い再生医療技術であり、また学術的に見ても安全性・有効性・応用可能性ともに他の再生医療等製品よりも優れていると自負しておりますが、一方で常に急激な技術革新の波に追い越されるリスクや想定していない副作用が出るリスクが存在し、またそのために当社の事業戦略や経営成績に重大な影響が出る可能性があります。

 

(b) 法規制改正・政府推進政策等の変化に由来するリスク

 再生医療等製品に関連する法規制についても、最新の技術革新の状況に対応すべく常時変更や見直しがなされる可能性があります。例えば、法律・ガイドライン等の追加・改正により、これまで使用が認められてきた原材料が突然全く使用できなくなるといったリスクや当社の想定通りの内容で薬事承認が下りない又は薬事承認の取得に想定以上の時間を要するといったリスクも否定できません。また世界的な医療費抑制の流れの中で、当社が想定している製品価値よりも低い薬価・保険償還価格となる可能性もあります。当然このような場合には、当社の事業戦略や経営成績に重大な影響が出る可能性があります。

 

(c) 事業基盤の整備・確立に係るリスク

 細胞シート再生医療事業には、まだ確立された事業基盤が存在しないことに起因するリスクが存在します。細胞シート再生医療事業を長期的に持続可能な事業構造にするためには様々な事業基盤の整備・確保が必要で、その一部には当社のみならず関連する官庁・企業・業界も一緒になって整備・拡充に取り組む必要がある社会的基盤もあります。また、当社は再生医療等製品の製造企業としての製品供給体制の確立へ向けた取り組みを推進しております。こういった取り組みの中には、先行投資を回収し得る利益率を達成できるだけの製造原価低減、医師に適切な内容・量の製品情報を届けることができるマーケティング・販売体制の構築、製造販売開始後のフォローアップ体制の確立など多くの課題が存在し、その解決のためには時間と多額の費用が必要となります。さらに言えば、当社の想定どおりに市場を開拓することができる保証はございません。当社では大手製薬企業などで豊富な実務経験を積んだスタッフを採用して事業基盤の確立に取り組んでおりますが、細胞シート再生医療事業の基盤の整備・構築にあたっては上述の通り当社の事業戦略や経営成績に重大な影響を及ぼす不測の事態が発生するリスクが存在します。

 

(d) ヒト又は動物由来の原材料の使用に関するリスク

 一般的に、再生医療等製品はヒト細胞・組織を利用したものであり、利用するヒト細胞・組織に由来する感染の危険性を完全に排除し得ないことなどから安全性に関するリスクが存在するとされています。

 また、やはり一般的に再生医療等製品は、原材料や製造工程で使用する培地に動物由来原料を使用することがあり、この動物由来原料の使用によって未知のウイルスによる被害等が発生する可能性を否定できません。

 以上のように、一般的に再生医療等製品には原材料として使用するヒト又は動物由来材料に起因する感染リスクなどヒト又は動物由来材料(又はその一部)が患者の体内に移植されることに伴うリスクが存在し、そのリスクが当社の事業及び財務状況に重大な悪影響を及ぼす可能性は否定できません。

 また、このような事例について当社の過失が否定されたとしても、ネガティブ・イメージによる業界全体及び当社製品に対する信頼に悪影響が生じ、当社の事業に影響を与える可能性があります。

 

④ 財務状況に由来するリスク

(a) マイナスの利益剰余金を計上していることに由来するリスク

 現時点では当社は研究開発活動を中心とした企業であり、細胞シート再生医療等製品が販売されるようになるまでは多額の研究開発費用が先行して計上されることとなります。そのため、当事業年度末において△1,606,214千円の利益剰余金を計上しております。

 当社は、将来の利益拡大を目指しております。しかしながら、当社は将来において想定どおりに当期純利益を計上できない可能性もあります。また、当社の事業が計画どおりに進展せず当期純利益を獲得できない場合には、マイナスの利益剰余金がプラスとなる時期が著しく遅れる可能性があります。

 

(b) 税務上の繰越欠損金に関するリスク

 当社には現在のところ税務上の繰越欠損金が存在しております。そのため、事業計画の進展から順調に当社業績が推移するなどして繰越欠損金による課税所得の控除が受けられなくなった場合には、通常の税率に基づく法人税、住民税及び事業税が計上されることとなり、当期純利益又は当期純損失及びキャッシュ・フローに影響を与える可能性があります。

 

(c) 資金繰り及び資金調達に関するリスク

 当社では、研究開発活動の推進に伴い営業キャッシュ・フローのマイナスが生じており、今後も事業の進捗に伴って運転資金、研究開発投資及び設備投資等の資金需要が想定されます。このような資金需要に対応すべく当社はこれまでに第三者割当増資や公募増資等を実施しましたが、今後さらにエクイティ・ファイナンス、事業提携の実現による開発中品目の上市前における収益化(一時金の獲得など)、国をはじめとする公的補助金等の活用などにより資金需要に対応していく方針です。また、資金調達手段の多様化により継続的に当社の財務基盤の強化を図ってまいりますが、エクイティ・ファイナンスや売上収入・提携一時金及び公的助成金・補助金等の獲得を含めた資金調達が想定どおり進まない場合等、資金繰りの状況によっては当社の事業活動等に重大な影響を与える可能性があります。

 また、将来増資などのエクイティ・ファイナンスを実施した場合には、当社の発行済株式数が増加することにより1株当たりの株式価値が希薄化する可能性があります。

 

(d) 配当政策に関するリスク

 当社は設立以来配当を実施しておりません。また、当社は研究開発活動を継続的に実施していく必要があることから、当面は内部留保の充実に努め研究開発資金の確保を優先することを基本方針としております。また、株主への利益還元も重要な経営課題の1つであると認識しており、経営成績と財政状態を勘案して利益配当も検討してまいります。しかしながら、事業等の進捗によっては利益配当までに時間を要する可能性があります。

 

⑤ 新株予約権の行使による株式価値の希薄化に関するリスク

 当社は、ストック・オプション制度を採用しております。2015年8月13日開催、2017年8月10日開催及び2020年7月21日開催の取締役会において会社法第236条、第238条及び第240条の規定に基づく新株予約権付与に関する決議を行いました。当該新株予約権の行使が行われた場合には、当社の1株当たりの株式価値が希薄化する可能性があります。また、今後も優秀な人材確保のために、同様なインセンティブプランを継続して実施していくことを検討しております。従いまして、今後付与される新株予約権の行使が行われた場合には、当社の1株当たりの株式価値が希薄化する可能性があります。

 また当社は2023年5月15日開催の取締役会において第三者割当による新株予約権の発行による資金調達を決議いたしました。当該新株予約権の行使が行われた場合には、当社の1株当たりの株式価値が希薄化する可能性があります。

 

⑥ 人材及び組織に関するリスク

(a) 特定の人材への依存に由来するリスク

 当社では、過度に特定の人材に依存しない組織的な経営体制の構築を進めておりますが、現時点で何らかの事由で特定の人材が当社の業務を継続することが困難になった場合、当社の事業展開や経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。

 

(b) 人材の確保及び育成に関するリスク

 当社の事業活動は、現在の経営陣、各部門の責任者と構成員等に大きく依存しております。そのため、優秀な人材の確保と育成に努めておりますが、人材確保又は育成が計画どおりに行えない場合、当社の事業展開や経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。

 

(c) 小規模組織であることに由来するリスク

 当社の組織は小規模であり、内部管理体制も規模に応じたものとなっております。今後の事業拡大に伴い、内部管理体制の一層の充実を図る方針ではありますが、当社が事業拡大に応じて適切かつ十分な組織対応ができない場合には、組織効率が低下したり十分な事業活動が行えない可能性があります。また、人員の増加とそれに連動する人件費の増加によって、経営効率が低下する可能性があります。

 

⑦ 訴訟について

 当社は国内外で事業を遂行する上で、訴訟やその他の法的手段の当事者となる可能性があり、重要な訴訟等が提起された場合又は事業遂行の制限が加えられた場合、当社の財政状態、経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 なお、当社は2024年2月6日付で三顧股份有限公司(MetaTech(AP)Inc.)から契約上の地位確認等請求の訴訟を提起されております(訴状送達日、2024年3月7日)。当社は、2023年12月18日付で三顧股份有限公司(MetaTech(AP)Inc.)に対し、独占的事業提携契約の条項に則り、締結済みの全ての契約関係を解消することとしておりましたが、三顧股份有限公司(MetaTech(AP)Inc.)は、訴状において当該契約関係の解消の無効を主張し、当該契約上の当事者の地位にあることの確認を求めております。当社は、三顧股份有限公司(MetaTech(AP)Inc.)の訴えとは法的見解を異にしており、今後、訴訟において適切に対応してまいります。現時点では当社の財政状態、経営成績に与える影響はないと判断しておりますが、今後、裁判の結果によっては、当社の財政状態、経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

⑧ 継続企業の前提に関する重要事象等

 当社は、当社新株予約権の行使による資金調達の実施により、当事業年度末の手元資金(現金及び預金)残高は2,163,292千円となり、財務基盤については安定的に推移しております。一方で事業面におきましては細胞シート再生医療事業の重要課題である当社細胞シート再生医療第1号製品の早期事業化の道程を示すまでには至っておらず、当社は当事業年度末において、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような状況が存在していると判断しております。

 当社は当該状況の解消を図るべく、以下の施策に取り組んで参ります。

 

当社細胞シート再生医療第1号製品の早期事業化の実現と事業提携の推進による収益機会の獲得

 当社は、今後、同種軟骨細胞シートの開発を推進し、当社細胞シート再生医療第1号製品の早期事業化を実現すること、また事業提携先の開拓を通じて、更なる収益機会を獲得していくことで当該状況の解消を図って参ります。

 

配当政策

3【配当政策】

 当社は設立以来配当を実施しておらず、また当事業年度末においても配当可能な状況にありません。

 当社は細胞シート再生医療等製品及び再生医療支援製品の研究開発を主体とするビジネスモデルを採用しており、現在は細胞シート再生医療等製品の第1号製品の早期事業化を目指している段階です。細胞シート再生医療等製品の第1号製品が本格的に収益に寄与するまでにはまだ数年以上の時間が必要である一方で、多額の先行投資を伴う研究開発活動を今後も継続的かつ積極的に実施していく計画としていることから、当面は内部留保に努め、研究開発資金の確保を優先したいと考えております。

 ただし、株主への利益還元も当社にとって最も重要な経営課題の1つであると認識しており、経営成績及び財政状態を勘案しながらできるだけ早期に配当を実現すべく引き続き検討してまいります。

 剰余金の配当を行う場合は、年1回期末での配当を考えており、配当の決定機関は株主総会です。また、当社は、機動的な配当対応を行うため、会社法第454条第5項に基づく中間配当を取締役会の決議によって行うことができる旨を定款に定めております。