2024年3月期有価証券報告書より

リスク

3 【事業等のリスク】

  当社は、グローバルなリスクに対応するため、リスクマネジメント体制の整備やコーポレートリスクのマネジメントプロセスを設定し、グループ全体のリスクマネジメント活動を強化しています。また、有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が当社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは次のとおりであり、すべてのリスクを網羅的に記載しているわけではありません。なお、当該事項は、当社が有価証券報告書提出日時点において判断したものです。

 

(1)リスクマネジメント体制

 当社は、代表取締役社長を委員長とした「リスクマネジメント委員会」を定期的に開催し、リスクマネジメント方針、コーポレートリスク並びにリスクオーナーの決定を行うとともに、対応策の進捗状況のレビューを実施しています。当委員会にて審議した議案を取締役会に報告するとともに、各主管部門、工場・事業所並びにグループ会社に対して方針の共有を行っています。また、2023年4月より専門部署であるリスクマネジメント部を設置し、リスクマネジメント体制の強化を図っています。

 

リスクマネジメント体制図

 

(2)コーポレートリスクのマネジメントプロセス

 京セラグループでは、リスクアセスメントを実施し、主要リスクを認識、分析、評価していることに加え、外部専門家によるレポート等で注目されているリスクについても分析・評価を行っています。グループ内の主要リスク及び外部環境で注目されているリスクの中から、経営への影響が特に大きく、対応が必要なコーポレートリスクを特定し、リスク対策の実施やレビュー、対策の改善等、以下のPDCAサイクルを推進しています。

 

コーポレートリスクのマネジメントプロセス図

 

 

 

(3)事業等のリスク

 上記リスクマネジメントプロセスにより特定されたコーポレートリスク及びその対応策は次のとおりです。

 

[コーポレートリスク]

a. 国際的な事業活動に関するリスク

 当社は、日本以外に米国や欧州、アジア地域をはじめとする世界各国で、製造及び販売拠点拡充のために多額の投資を行っています。これらの海外市場で事業活動を行っていく上で、当社にとって望ましくない政治的・地政学的・経済的要因により、経済安全保障政策・投資規制・製品や原材料の輸出入の規制・収益の本国送金規制等に関する予期できない法律・規制の変更等のリスクに直面する可能性があります。

 

(主要な対応策)

 当社は、経済安全保障対策プロジェクトにおいて、刻々と変化する国際情勢を把握し、カントリーリスクのモニタリングを実施するなど、能動的なリスク回避策をとっています。

 投資規制・収益の本国送金規制については、当社及びグループ各社において規制変更の情報を早期に収集し、当該国で保有する会社財産を国外に退避させるなど、適切に対処するよう取り組むことで、そのリスクの予防・回避に努めます。

 

b. 人権に関するリスク

 世界的な人権に対する配慮の高まりにより、自社だけでなくサプライチェーンにおける人権問題にも配慮が求められています。そのため、これに関する予期できない法律・規制の変更等のリスクやレピュテーションリスクに直面する可能性があります。

 

(主要な対応策)

 当社は、従業員、顧客、株主・投資家並びに取引先等、京セラグループに関わるすべてのステークホルダーの人権を尊重し、人権リスクの軽減を推進しています。当社はEU紛争鉱物規則等の法規に対応しており、調達する鉱物に紛争や人権侵害等のリスクが存在するか調査し、リスク評価や是正措置を行うなど、人権に関するリスクの軽減やサプライチェーンの高い透明性の実現に取り組んでいます。また、専門機関と連携しながら人権デューディリジェンスを実施しており、人権リスクの特定、実態調査、是正・軽減に向けた取り組みを推進しています。さらに、人権尊重の活動の一環としてRBA(Responsible Business Alliance)への加盟や、当社及びサプライチェーンに対するハラスメント・差別の禁止教育等を実施しています。

 

c. 情報セキュリティに関するリスク

 当社は、事業活動における重要情報や顧客から入手した個人情報、機密情報を保有しています。これらの情報については、情報機器の故障やソフトウェアの不具合、マルウェアの侵入や高度なサイバー攻撃等により、情報漏洩や改ざん、滅失、システム停止によるアクセス困難等の被害を受けるリスクがあります。このような事態が発生した場合には、更なるセキュリティ対策や損害賠償等の多額の費用負担により、当社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に影響を及ぼす可能性があります。また、当社のシステムに対する不正アクセスを防止するため、今後の技術革新や顧客からの最新のセキュリティ要求事項にも対応していく必要があります。これらの問題への対策が不十分な場合、当社の財政状態及び事業活動に影響を及ぼす可能性があり、社会的信用や事業競争力の低下につながる可能性もあります。

 また当社は、業務効率や生産性の向上、イノベーションの促進等を実現するため、生成AIをはじめとする各種AI技術の積極的な導入を行っています。一方、生成AIについては秘密情報や個人情報の入力による情報漏洩、誤情報の生成、知的財産権侵害、倫理的問題等が懸念されており、これらの問題への対策が不十分な場合、信頼回復のための多額の費用負担や事業運営に影響を及ぼす可能性があります。

 

(主要な対応策)

 当社は、すべての情報資産の重要性の理解と適切な利用・管理に努め、社会全体の信頼に応えるため、目的やセキュリティ対策・行動指針等を定義した「情報セキュリティ基本方針」を定め、継続的に情報セキュリティのリスク予防や軽減に取り組んでいます。また、経営戦略、商品開発、各種ノウハウ、技術等を会社の重要資産と認識した上で、京セラグループ統一の「情報セキュリティ管理方針」を制定し、情報セキュリティに関する管理体制を整備しています。さらに、情報セキュリティを維持・確保するために、従業員が遵守すべき事項を定めた各種規程を制定し、適宜見直しを行い、従業員への教育を実施しているほか、ネットワークやIT資産等に対するセキュリティ対策、事業継続計画(BCP)を策定し、情報セキュリティの強化を図っています。外部からのマルウェアの侵入やサイバー攻撃等に対しては、システムの脆弱性対策、システム監視による侵入防止策、インシデント発生時の早期検知、対処、復旧策を講じています。また生成AIについては、外部ネットワークから隔離した社内クラウド上の生成AIの利用を推進するとともに、生成AIを適正に利用するためのガバナンス体制の構築検討やガイドラインの策定、従業員への教育を実施しています。

d. 優れた人材の確保が困難となるリスク

 当社が将来にわたり発展するためには、技術・販売・管理面において優れた人材を確保する必要があります。当社はあらゆる事業分野において、さらに多くの優れた能力を有する人材の雇用が必要になると考えています。近年、各分野において、有能な人材の獲得競争がますます激しさを増してきていることから、当社は今後、現有の人材を維持することや、能力のある人材を増員することができなくなる可能性があります。また、業務と育児・介護等との両立を支援する勤務体系の導入等、ワークライフバランスの充実化やDEI(Diversity, Equity & Inclusion)の推進を実施しない場合、現有の人材を維持できなくなる可能性があります。

 

(主要な対応策)

 当社は、インフレや労働市場を踏まえた給与水準、海外の更なる現地化促進等、将来を見据えた人材確保の施策に取り組んでいます。また、在宅勤務やフレックスタイム制度等の柔軟な勤務体系の導入により、ワークライフバランスの充実化やDEIの推進を図り、多様な人材が働きがいを持って活躍できる職場環境の実現に取り組んでいます。

 

e. 地震等の災害が発生するリスク

 当社は、国内外において多くの開発・製造・事業関連施設を有しています。日本をはじめとするそれらの施設がある地域での地震や台風、津波、大雨、洪水、大雪、噴火等の不可避な自然災害の発生や、設備故障及び人為的ミスにより当社の施設に影響を与える大規模な災害等が発生した場合、当社の事業への影響が考えられます。例えば、大規模な地震の発生により、当社の人員や開発・生産設備が壊滅的な損害を被り、操業の中断や製造・出荷の遅延を余儀なくされる可能性があります。また、損害を被った施設の復旧等に要する費用が多額に発生する可能性があります。さらに、社会資本や経済基盤に著しい被害が生じた場合には、交通網の混乱や電力の供給不足等が生じ、当社のサプライチェーンや生産活動に困難が生じる可能性があります。また、当社に原材料等を供給するサプライヤーが被害に遭った場合には、原材料等の調達に困難が生じる可能性があり、当社の顧客が被害を受けた場合には、当社の製品の出荷が停滞する可能性があります。このような災害に伴う被害や、その結果生じる経済の停滞や消費の鈍化が当社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に影響を及ぼす可能性があります。

 

(主要な対応策)

 当社は、地震等の自然災害、設備故障及び人為的ミスによる大規模な災害等に対してBCPの体制を整備し、活動を継続しています。具体的には、重要資源である人員、設備、部材、情報について、被害を最小化するための事前対策に加え、万が一被災した場合の早期復旧計画や代替供給策を策定し、教育・訓練を実施することにより、事業中断を回避し、早期に事業再開ができるよう努めています。

 

 上記以外の主要なリスクは、次のとおりです。

 

[事業活動に関するリスク]

f. 日本及び世界経済の変動に関するリスク

 当社の製品やサービスは、日本のみならず世界各国で製造、販売しており、それらの国や地域の経済状況によって大きな影響を受ける可能性があります。

 翌連結会計年度は、地政学的リスクや世界各国の政治・金融リスク等の懸念等により、世界経済の成長が鈍化する恐れがあります。

 このような経営環境において、当社の主要市場である半導体、情報通信、自動車関連市場は、AIやIoT、DX等の更なる普及に伴う継続的な市場拡大が見込まれていますが、上記のリスクが顕在化し、想定以上に悪影響を及ぼす場合には、当社の財政状態及び経営成績は、当社の期待を下回る可能性があります。

 

(主要な対応策)

 当社は、製品及びサービスの安定供給と、国や地域の経済状況の変化による影響を最小化するため、日本国内や東南アジア地域での設備投資の拡充と生産活動拠点の最適化に努めています。また、適時適切な意思決定を実現するため、最新の需要動向を把握するマーケティング機能を強化しています。さらに、世界的な金利上昇に伴う借入コストを低減するとともに、戦略投資をタイムリーに実施できる体制を構築するため、保有金融資産を有効活用した銀行借入を実施しています。

 

g. 為替レートの変動に関するリスク

 当社は、国内外で事業を行っているため、為替レートの変動の影響を受けます。為替レートの変動は、常に当社の事業活動の成果や海外資産の価値及び生産コストに影響を与えるため、当社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローへ影響を及ぼす可能性があるとともに、事業活動の結果について期間ごとに比較することを困難にする場合があります。

  また、為替レートの変動は、当社と海外の競合企業が同一市場で販売する製品の価格競争や、当社の事業活動に必要な輸入品の仕入価格にも悪影響を及ぼす場合があります。

 

(主要な対応策)

 当社は、為替レートの変動について、外国為替リスク管理方針に基づき、主に短期の為替予約を行うことにより、この影響の軽減に努めています。また、海外生産拠点における現地での部材調達の促進により、仕入価格における為替リスクの低減を図っています。

 

h. 当社製品の競合環境に関するリスク

 当社は、多種多様な製品を販売しているため、国際的な大企業から、高度に専門化し急成長している比較的小規模な企業まで、競合会社が広範に存在します。当社の競合環境はこれらに限らず、コスト構造等で競争優位性を持つ新興国企業を含め、新たな脅威となる競合他社の出現によって常に変化する可能性があります。特定の事業分野に特化している多くの競合会社と異なり、当社は多角的に事業を展開しているため、個々の事業分野に関しては、競合会社ほど出資や投資を行うことができない可能性があります。当社の競合会社は、財務・技術・マーケティング面での経営資源を当社の個々の事業より多く有している可能性があります。また、競合の要因は事業分野によって異なりますが、価格と納期は当社の全事業分野において影響を及ぼす主な要因となります。需要や競合の状況によりますが、製品価格の値下げ要求は概して恒常化しているため、今後も製品価格の下落が予想され、その結果、当社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に影響を及ぼす可能性があります。

 

(主要な対応策)

 当社は、素材技術から部品、デバイス・機器、システム・サービスまでの多岐にわたる経営資源を有しています。これらの経営資源を有効活用するため、グループ内の連携強化を図り、高付加価値製品の提供等により、競争優位性の確保に努めています。また、当社が顧客の製品ごとに仕様を合わせた部品を開発・製造・販売している事業においては、顧客の要求に沿った新製品の開発に早く着手することにより、競争力の強化を図っています。さらに、製品価格の下落に対しては、当社独自の経営管理システム「アメーバ経営」の実践を通じた部門別採算管理の徹底により、原価低減を図り、高い競争力の実現に取り組んでいます。

 

i. 生産活動に使用される原材料の価格変動、サプライヤーの供給能力に関するリスク

 当社の各事業の生産活動に使用される原材料は常に価格変動にさらされているため、原材料価格の上昇や原油高による輸送コストの上昇は当社の製造原価の上昇につながる可能性があります。このような製造原価の上昇が製品の販売価格に転嫁できず、当社の収益性を押し下げる可能性があります。なお、当社は、原材料の正味実現可能価額(通常の事業の過程における見積売価から、完成までに要する見積追加原価及び販売に要する見積費用を控除した額)が原価を下回った場合には、正味実現可能価額まで評価減しており、今後も評価減を行う可能性があります。

 また、当社は、生産活動において消費される一部の原材料を特定のサプライヤーに依存しており、これらのサプライヤーに対する需要が過剰な状況となり、当社への供給が不足した場合、当社の生産活動に遅延や混乱を引き起こす可能性があります。このような原材料の供給に重大な遅延があった場合、当社はただちに特定のサプライヤーに代わりうる供給元を確保できない可能性や、合理的な価格で原材料を確保できない可能性があります。このような価格上昇や原材料の供給停止は、当社の製品の需要を押し下げる可能性があります。

 

(主要な対応策)

 当社は、購買活動にあたり、「購買基本方針」を定め、会社概況やサステナビリティに関する各種調査を通じて信頼のおける供給業者を選定するとともに、複数社からの購買を基本方針としており、安定的かつ適正価格での調達に努めています。

 昨今の労務費や原材料費、エネルギー価格等の高騰を受け、当社はサプライヤーからの適正な価格転嫁について協議するとともに、顧客に対して適正な価格転嫁交渉を行っています。また、当社は多岐にわたる事業を有していることから、原材料や部材の調達において、スケールメリットを活かした価格交渉力の向上を図るとともに、各事業で原価低減にも取り組んでいます。

 さらに、当社は、素材・部品からデバイス、機器、システム、サービスに至るまで事業を展開していることから、各事業で使用する部材や部品の一部をグループ内で調達しています。これにより、外部から調達している部材、部品を確保できない場合、グループ内での調達に切り替えるなどの対応を検討することが可能です。

 

j. 外部委託先や社内工程における製造の遅延または不良の発生に関するリスク

 当社は、部品の製造や製品の組立の一部を単一もしくは限られた数社の取引先に外部委託しています。その中には非常に複雑な製造工程や長い製造時間を必要とする取引先も存在するため、部品や組立品の供給が遅滞する場合があります。また、このような部品や組立品が高い品質や信頼性を欠き、かつ適時に納入されない場合には、関連する製品の生産に重大な影響を及ぼし、当社の生産活動の遅延や中断が生じる場合があります。さらに、当社の製造工程においては、製品への微小不純物の混入や製造工程の問題等の発生によって製品が納品できない状態になる場合や規格外となる場合があります。こうした要因によって生産高が計画を下回る、あるいは製品の出荷が遅れる、損害賠償請求を受ける等、業績に重大な影響を与える場合があります。また、当社製品の品質問題によりリコールや大規模な製品事故が発生した場合は、多額の費用の発生や社会的信用の低下につながる場合があります。これらのリスクに加え、製造原価に占める固定費の割合が高い事業においては、生産数量や設備稼働率の低下が当社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に影響を及ぼす可能性があります。

 

(主要な対応策)

 当社は、外部委託先の選定にあたり「購買基本方針」を定め、十分な検討の上、委託先を選定しています。また、当社では、社内で確立した製造工程について、原材料・部品等を支給し、設備及び製造仕様書を委託先に貸与することにより、当社と同じ生産管理や品質マネジメントシステムのもと、顧客への納期及び品質要求に対応しています。

 社内においては、各業界に応じた品質基準に基づき厳格な品質管理のもと、顧客に対して製品を供給しています。また、データサイエンスを用いた品質改善や、AIやロボットを活用した生産性改善に向けた取り組みを継続的に実施し、リスクの低減に努めています。

 

k. 生産能力及び開発体制の拡大、もしくは現在進行中の研究開発が期待される成果を生み出さないリスク

 当社は、需要の増加や顧客の要求に対応するため、常に生産及び開発能力の拡大に努めています。特に近年のAIをはじめとする新技術の進展により、中長期的に5G/6Gや半導体、モビリティ関連市場での高精細、高性能、高品質な各種製品の需要が見込まれます。こうした市場動向に応じた生産及び開発能力の拡大並びにニーズの変化にタイムリーに対応するための供給体制の構築を図る際に、予期せぬ技術的な障害や顧客の方針転換等により計画どおりに拡大できない場合、新たに生産された製品や開発された技術から期待された成果が得られない可能性があります。また、当社で現在進行中の研究開発活動から生まれる製品が、市場において期待された評価を得られない可能性もあります。

 

(主要な対応策)

 当社は、高シェア製品を中心に引き続き国内外において新工場棟の建設を進めるとともに、デジタル技術の活用による生産現場のスマートファクトリー化等の積極的な設備投資を進め、既存事業の拡大に努めます。また、新製品・新技術開発の促進に向けて、グループ内外の経営リソースの一層の活用による開発力の強化及びスピードアップ、並びに人材育成に努め、事業領域の拡大を図ります。さらに、長期的な事業成長を支える新規事業の創出に向けた研究開発への投資も積極的に進めています。新素材等の応用展開による様々な領域への新製品開発をはじめ、当社の強みである幅広い技術資産を組み合わせることにより、独自性が高く、社会課題の解決に貢献する新規事業の創出を図り、リスク低減に努めています。

 

l. 買収した会社や取得した資産から期待される成果や事業機会が得られないリスク

 当社は、事業を発展させるため、買収による会社または資産の取得を検討しており、実際にそれらを取得することがあります。しかしながら、取得後、被買収会社の事業や製品並びに人材を当社が効果的に当社の既存事業に統合できない可能性や、買収による事業上の成果や財政上の利益または新しい事業機会を当社が期待する程は得られない可能性があります。また、被買収会社による製品の製造やサービスの提供が、当社が計画したとおり効率的に実施できない可能性や、被買収会社の製品やサービスの需要が当社の期待に達しない可能性があります。従って、買収によって取得した会社や資産を期待どおりに活用できない場合、当社の事業に重大な影響を及ぼす可能性があり、これらの資産が減損していると判断される場合には、当該資産の帳簿価額が回収可能価額を超過している金額に基づいて減損損失を計上するため、当社の財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。また、他社や学術機関、政府機関等との協業においても、上記と同様の影響を受ける可能性があります。

(主要な対応策)

 当社は、企業買収・資産取得・協業等の投資意思決定においては、その効果を合理的かつ保守的に見積もった事業計画について、社外専門家による事業価値のレビューを踏まえ、機関決定の場で慎重に審議しています。取得後においては、PMI(Post Merger Integration)を進め、事業計画に対する実績達成度をモニタリングし、都度適切な施策を実行して損失リスク発生の回避に努めています。

 

m. 感染症の発生、テロ行為、または紛争等が当社の市場やサプライチェーンに混乱を与えるリスク

 当社は、グローバルに事業を拡大していることに伴い、感染症の発生、テロ行為、または戦争・紛争等の事態に巻き込まれるリスクがあります。このような事態においては、開発・製造・販売・サービス等の事業活動の中断、混乱または延期等が生じる可能性があります。また、当社の市場やサプライチェーンに支障をきたす可能性もあります。このような状況が長期間続いた場合には、当社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に影響を及ぼす可能性があります。

 

(主要な対応策)

 当社は、危険性が高い感染症については、政府指針や社内規程に基づいた対策を講じ、感染防止に努めています。

 また、ロシア・ウクライナ情勢やイスラエル・パレスチナ情勢に関するリスクについては、本社に対策本部を設置し、刻々と変化する状況を注視するとともに、グループの重要情報の一元化を図り、対応が求められる事案を協議しています。

 

[法規制・訴訟に関するリスク]

n. 当社の企業秘密や知的財産・ブランド価値に関するリスク

 当社が将来にわたり発展し、市場競争において優位な地位を確立・維持するためには、当社の企業秘密やその他の知的財産を守らなければなりません。当社の企業秘密を保有する従業員が在職中もしくは転職後に、またジョイント・ベンチャー等のパートナー、顧客、社外委託業者等が当社の企業秘密を不適切に漏洩した場合、もしくは他社より当社に転職した従業員が当該他社情報を不適切に当社の事業活動に流用した場合、または当社が知的財産権を取得している独自開発製品・工程が他社によって侵害された場合、あるいは当社のブランド価値を毀損するような模倣品が販売された場合、当社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に影響を及ぼす可能性があります。また、当社は戦略的に知的財産を出願していますが、こうした出願が登録されない可能性があり、また登録されても無効にされる可能性、あるいは登録された当社の知的財産権を回避される可能性もあります。

 

(主要な対応策)

 当社は、企業秘密を守るために従業員、ジョイント・ベンチャー等のパートナー、顧客、社外委託業者等と秘密保持契約を締結しています。また、他社より当社に転職する社員に対しては、当該他社の属性に応じて適宜、当該他社の秘密情報を当社事業に流用しないことを誓約させています。当社が独自に開発した製品や工程については、国内外において知的財産権を取得し、侵害者の排除に努めています。また、当社の知的財産については、先行調査を十分に実施した上で出願を行うことにより、登録可能性を高めるとともに、様々な観点から当該事業分野や製品を戦略的に網羅する複数の強い知的財産権を取得し、これらの知的財産を活用することで事業に貢献する活動を行っています。さらに当社のブランド価値の維持向上を図るため、知的財産権を活用した模倣品の摘発を行っています。

 

o. 当社製品の製造・販売を続ける上で必要なライセンスに関するリスク

 当社はこれまでに、第三者より知的財産権を侵害しているとの通知を受けたことや、知的財産権の実施許諾についての対価請求の申し出を受けたことがあり、今後も同様の事例が発生する可能性があります。特に通信技術に関連する製品では、第三者の標準必須特許に対する高額の実施許諾料の支払いを要求される可能性があります。従って当社は、以下のことを保証することはできません。

・侵害の申し立て(または侵害の申し立てに起因する賠償請求)が当社に対して行われることはないということ。

・侵害の申し立てがあった場合、製品販売の差止命令を受ける事態が発生しないということ、及び、差止命令によって当社事業の業績が大きく損なわれる事態が発生しないということ。

・当社の事業活動に悪影響を及ぼす高額の実施許諾料の支払いを要求されないこと。

 

(主要な対応策)

 当社は、新技術・新製品を開発する際には、事前に第三者の知的財産権を調査して、知的財産リスクの低減に取り組んだ上で事業を行うように努めています。それでも第三者から侵害の申し立てがあった場合は、誠実に対応を行い、必要に応じて適正な和解金や実施許諾料を支払うことで解決を図ります。

 

p. コンプライアンスに関するリスク

 当社は、「人間として何が正しいか」を物事の判断基準とする経営哲学「京セラフィロソフィ」をベースにコンプライアンスの徹底に努めています。しかしながら、このような徹底が十分になされず、法令違反や社会規範に反した行動が発生した場合、信用失墜による顧客からの取引停止、罰則金の支払い、損害賠償請求等により、当社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に影響を及ぼす可能性があります。

 

(主要な対応策)

 当社は、コンプライアンス活動が社是や京セラフィロソフィの延長にある重要な活動であることを理解するとともに、各国の関連法令の遵守がステークホルダーの信頼にもつながる極めて重要な活動であることを理解し、専門部署であるグローバルコンプライアンス推進部の設置や「京セラコンプライアンス憲章」の制定等、コンプライアンス活動に積極的に取り組んでいます。また、各法令の主管部門による法令遵守体制の構築や管理、新規法令の施行時や法令改正時の社内連絡体制の構築、内部通報制度の導入、定期的な法令監査の実施、全従業員のコンプライアンス意識の向上に資する施策に重点的に取り組むコンプライアンス月間の制定、役員や従業員に対する定期的なコンプライアンス教育等により、法令を遵守し、社会規範に則った企業活動の徹底を図っています。さらに、グローバルなコンプライアンスリスクを察知・共有することを目的に、国内外の主要なグループ会社の法務・コンプライアンス・知的財産部門の責任者が参加する「グローバル法務・コンプライアンス・知的財産会議」を定期的に開催し、各社のコンプライアンス活動及び法的な課題・対策に関して議論を行っています。

 

q. 環境に関連する費用負担や損害賠償責任等が発生するリスク

 当社は、温室効果ガス削減、大気汚染、土壌汚染、水質汚濁の防止、有害物質の除去、廃棄物処理、製品リサイクル、従業員や地域住民の健康、安全及び財産保全、さらに当社の製品における使用物質の適切な表示等に関する国内外の様々な環境関連法令の適用を受けています。このような環境関連法令は、当社の現在の事業活動だけでなく、当社の過去の事業活動や、当社が買収等により他社から承継した事業の過去の活動に対しても適用される可能性があります。当社は、環境関連法令により当社に生じる義務に基づく債務について、その発生の可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積ることができる場合には引当金を計上します。仮に、当社の環境関連法令の義務違反等が判明した場合には、規制当局から浄化費用の支払いを命じられる可能性や損害賠償責任を負う可能性があります。また、当社が任意で環境問題に取り組む必要があると判断した場合にも、環境浄化費用の負担や補償金の支払いを行う可能性があります。これらの環境に関連する費用負担や損害賠償責任は、当社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に影響を及ぼす可能性があります。

 

(主要な対応策)

 当社は、事業活動にあたり、経営理念を基本とした環境安全に関する総合的な取り組みを推進するため、製品のライフサイクルを通した環境負荷の低減、バリューチェーン全体での温室効果ガス排出量の抑制等、「京セラグループ環境安全方針」を制定し、環境関連法の遵守を徹底するとともに、規制の変更等への適切な把握、対応に努めています。

 

r. 世界的な気候変動に関するリスク

 世界的な気候変動等により、当社に適用される環境関連法令が将来さらに厳しくなる可能性や、適用の範囲が拡大される可能性があります。対応の不足や遅れにより、想定外の急速な脱炭素社会への移行に対応できず、コストの増加や企業ブランドの低下を招くリスクがあります。

 脱炭素社会への移行リスクについては、各国で更新された排出量削減目標が当社の目標より高い場合や、新たに炭素税が導入された場合、当社の製造コストが一時的に増加する可能性があります。また、顧客より製品のカーボンフリー化の要求が拡大した場合、当社の製造コストが増加する可能性があります。一方、社会の脱炭素化の動きは、当社のエネルギー関連事業の成長につながる機会として捉えることができます。物理リスクでは、異常気象が激甚化した場合、自然災害による操業停止、生産減少、設備復旧等に係るコストや、自然災害対策費用並びに保険料等が増加する可能性があります。また、水不足等により生産が減少する可能性があります。

 

(主要な対応策)

 当社は、気候変動問題を重要な経営課題の一つとして位置付け、代表取締役社長を委員長とする京セラグループサステナビリティ委員会において、長期環境目標の決定やその達成に向けた対策等について審議を行っています。

 また当社は、エネルギー関連事業の推進により、再生可能エネルギーの普及を図るとともに、製造工程での省エネルギー化及び再生可能エネルギーの導入により、温室効果ガス排出量の削減に努めています。

 なお、当社グループの長期環境目標については、「2. サステナビリティに関する考え方及び取組 (1)気候変動への対応 d. 指標及び目標」を参照ください。

 

[財務会計に関するリスク]

s. 当社の顧客の財政状態が悪化し、売掛債権が回収困難となるリスク

 当社は、売掛債権について、顧客が期日までに返済する能力があるか否かを考慮し、回収不能額を見積った上で貸倒引当金を計上しています。しかしながら、通常の営業取引において当社の売掛債権は、担保物件や信用保証により、すべては保全されていません。従って、経済環境の悪化等に伴い、顧客に対する売掛債権の回収が困難となり、保全されていない多額の債権が発生した場合、当社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に影響を及ぼす可能性があります。

 

(主要な対応策)

 当社は、与信管理規程に基づき、取引先ごとに回収条件・与信限度額を設定し、定期的に与信の見直しを行っています。また、回収期限を日次で管理しており、回収遅延や信用不安が発生した場合は、個別に債権回収、条件変更、担保・保証の入手等の債権保全策を講じ、貸倒リスクの回避に努めています。

 

t. 当社が保有する投資有価証券及びその他の投資に関するリスク

 当社は、取引関係の維持及び株式保有による収益獲得を通じた企業成長、並びに企業の社会的意義等を踏まえ、中長期的に当社の企業価値を向上させるという視点に立ち、当社の関係会社以外の資本性証券に投資しています。その主たる投資は日本の通信サービス・プロバイダ-であるKDDI㈱の株式への投資です。当社は、第二電電㈱(現KDDI㈱)を設立して以来同社株式を保有しており、2024年3月31日現在の保有比率はKDDI㈱の発行済株式の14.55%となっています。KDDI㈱の事業発展に伴い同社株式の価値が増加した結果、同社株式への投資は当社の総資産の約30%を占めており、KDDI㈱の株式の市場価格の変動は、当社の財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。

 

(主要な対応策)

 当社は、KDDI㈱の株式については、経済合理性及び当社の中長期的な企業価値向上に向けた同社との戦略的連携の追求、並びに当社の持続的成長に必要となる投資資金の調達に活用しています。

 なお、当該株式を含むすべての資本性金融商品の一部である政策保有株式については、毎年の保有に係る検証の結果、保有意義がないと判断された場合、適宜縮減を進めています。また、保有株式の株価変動が当社の財政状態に重要な影響を及ぼす可能性を察知するため、定期的に株価のモニタリングを行っています。なお、当社は、政策保有株式の更なる縮減に向けて、当面の縮減目標を「2026年3月期までに簿価の5%以上を縮減すること」としています。

 

u. 有形固定資産、のれん並びに無形資産の減損処理に関するリスク

 当社は、多くの有形固定資産、のれん並びに無形資産を保有しています。有形固定資産及び償却性無形資産については、帳簿価額を回収できない可能性を示す事象が発生した時点、もしくは状況が変化した時点で減損の判定を行っています。また、のれん及び耐用年数が確定できない無形資産は償却をせず、年1回及び減損の可能性を示す事象が発生または状況が変化した時点で減損の判定を行っています。これらの資産が減損していると判断された場合には、当該資産の帳簿価額が回収可能価額を超過している金額に基づいて減損損失を計上するため、当社の財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(主要な対応策)

 当社は、「l. 買収した会社や取得した資産から期待される成果や事業機会が得られないリスク」に記載のとおり、企業買収・資産取得・協業等の投資意思決定においては、その効果を合理的かつ保守的に見積もった事業計画について社外専門家のレビューを踏まえ、機関決定の場で慎重に審議しています。また、取得後においては、PMIを進め、事業計画に対する実績達成度をモニタリングし、都度適切な施策を実行して損失リスク発生の回避に努めています。

 

v. 法人所得税等に関するリスク

 当社は、繰延税金資産について、将来の課税所得に対して利用できる可能性が高いものに限り認識しています。仮に将来の市場環境や経営成績の悪化により将来の課税所得が見込みを下回る場合は、繰延税金資産の金額が大きく変動する可能性があります。また当社は、税務調査を受けることを前提に税務上認識された不確実な税務ポジションについて、発生の可能性が高いと判断した場合、当該部分を不確実な税務ポジションとして負債に計上しています。

 なお、法人所得税における不確実性に関する会計処理の金額と将来の税務当局との解決による金額は異なる可能性があります。

 また、移転価格税制・タックスヘイブン対策税制等に関する予期できない法律・規制の変更等のリスクに直面する可能性があります。

 

(主要な対応策)

 当社は、子会社が立案する年間事業計画について、達成度を適時確認し、都度適切な施策を実行することで、繰延税金資産の回収可能性に変更が生じないよう努めています。また、各国における税制変更及び税務調査に対しては、社外専門家を利用し、リスクの最小化に努めています。海外の税制については、税務情報を適時適切に提出することにより各国の税務当局と信頼関係を築き、必要に応じて事前照会を実施することで税務リスク低減に努めています。特に、グループ内の国際間取引については、OECD移転価格ガイドラインに従った独立企業間価格に基づいた取引を行うとともに、税務当局との事前確認制度を活用し、適正な納税に努めています。また、過度な節税を目的とする低税率国・地域(いわゆるタックスヘイブン地域)への税源の移転を防止し、各国の税制に従い適正な申告納税に努めています。

 

w. 会計基準の変更が財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼすリスク

 新会計基準もしくは会計基準の変更は、当社の財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。また、会計基準の変更に対応するために、会計ソフトウェアもしくは情報システムを変更した場合には、一定の投資もしくは費用が必要となります。

 

(主要な対応策)

 当社は、IFRSを連結財務諸表等に適用しているため、IFRSに適切に対応するための部門を設置するとともに、国際会計基準審議会が公表する基準書や解釈指針等を随時入手し、新会計基準に対応できる体制を整えています。会計基準の変更時には、財政状態及び経営成績に及ぼす影響を把握した上で適切に開示します。さらに、会計基準の変更に際して、有効な財務報告に係る内部統制を構築するために一定の投資額は必要となりますが、変更内容を適切に把握した上で投資の要否を決定します。

 

配当政策

3 【配当政策】

  当社は、将来にわたり連結業績の向上を図ることが企業価値を高め、株主の皆様のご期待に応えることになると考えています。従って、配当につきましては、連結業績の「親会社の所有者に帰属する当期利益」の範囲を目安とすることを原則とし、連結配当性向を50%程度の水準で維持する配当方針としています。併せて、中長期の企業成長を図るために必要な投資額等を考慮し、総合的な判断により配当金額を決定することとしています。

 また、安定的かつ持続的な企業成長のため、新事業・新市場の創造、新技術の開発及び必要に応じた外部経営資源の獲得に備える内部留保資金を勘案し、健全な財政状態を維持する方針です。

 なお、株主の皆様への利益還元の有力な手段として、自己株式の取得をキャッシュ・フローの一定の範囲内を目安に適宜実施していくこととしています。

 当社は会社法第454条第5項に規定する中間配当をすることができる旨を定款に定めており、期末配当及び中間配当を行うことを基本方針としています。これらの配当の決定機関は、期末配当については株主総会、中間配当については取締役会です。

  当連結会計年度の期末配当金につきましては、上記配当方針及び通期の業績を踏まえ、1株当たり25円といたしました。

  第70期の剰余金の配当は次のとおりです。

 

決議年月日

配当金の総額

1株当たり配当額

2023年11月1日

35,258百万円

100円

取締役会決議

2024年6月25日

35,216百万円

25円

定時株主総会決議

(注)2023年9月29日開催の取締役会決議により、2024年1月1日付で普通株式1株につき4株の割合で株式分割を行いました。