2024年3月期有価証券報告書より

リスク

3【事業等のリスク】

当社グループは、持続的成長を目指す上で、組織目標の達成を阻害する要因(リスク)に対し、全社的に対策を推進し、適切に管理する全社的リスクマネジメント(ERM)活動を実施しております。当社グループのリスクマネジメントの基本方針は、機会とリスクの適切な把握と対応により、グループ内の各組織が企業価値創造のための適切なリスクテイクを行うこと、及び企業価値の毀損を防止することの両立を図ることです。

このERM活動に関する施策を検討・実施し、リスクマネジメント活動を強化するため、社長が指名した執行役員を委員長とする経営会議の直接管理の委員会であるERM委員会を設置しております。ERM委員会は、リスクマネジメント活動における各組織の役割を明確化し、リスクの識別~評価、対策の検討~実行~モニタリング、改善までの一連のリスク管理活動のPDCAサイクルの推進を行っております。これらの活動は、取締役会および経営会議により監督されています。

 

ステップ

活動の目的

リスクの識別

当社グループを取り巻くリスクを洗い出す

リスクの評価

洗い出したリスクのうち、発生した場合の当社グループへの影響の大きさの観点から、特に対策を強化すべきリスクを、経営層(トップダウン)、現場(ボトムアップ)双方の目線で絞り込み、対応優先度を定める

対策の検討

リスクの顕在化を防ぐため、回避、移転、低減、受容等の観点から対策を考える

対策の実行

対策を実行し、リスクの顕在化を防ぐ

モニタリング

対策が適切に機能しているか、顕在化の兆候がないか、をモニタリングする

改善

リスクマネジメント活動の結果の振り返り、及び改善を検討する

 

 

リスクの評価として、毎期、これまでに取られている対策によるコントロール後の残余リスクについて、経営リソースの三要素(ヒト、モノ、カネ)、内部・外部ステークホルダーとの関係、レピュテーション、及びBCPの観点から当社グループに対するインパクトの大きさを算定し、さらにリスクの顕在化する可能性との組み合わせにより、残余リスクヒートマップを作成し、リスクの対策優先度を可視化・評価しております。これらリスクの評価結果や対策状況については、経営会議において審議し、取締役会に報告しております。また、期中においても、ヒートマップの妥当性について1回以上検証し、必要な場合は残余リスクの評価の見直しを行っております。

有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、投資家の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項には、次のようなものがあります。なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日(2024年6月21日)現在において判断した記載としております。また、各リスクが顕在化する時期を合理的に予測することは困難です。

(1)経済動向変化によるリスク

 当社グループが事業展開しているエレクトロニクス業界は、最終製品の主たる消費地である米国、欧州、中国をはじめとするアジア及び日本の社会・経済動向に大きく左右されます。さらに、それらの国または地域には、政治問題・国際問題や経済の浮沈といった様々なリスク要因が常に存在しております。当社グループではこれらの世界のリスク動向を注視し適時対策を講じておりますが、常に十分かつ適時の対策を講じられる保証はなく、またこのような経営環境の変化が予想を超えた場合等において、業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

(主要な対応策)

 経済動向変化による当社グループの業績へのマイナス影響を最小限に留めるべく、製造拠点の最適化、設備投資計画の精査、本社業務効率の改善等の経営体質改善の各種施策を実施しております。

(2)為替変動によるリスク

 当社グループは、グローバルに事業を展開しており、連結ベースでの海外売上高比率は90%を超え、取引通貨の多くは米ドル・ユーロ等、円以外の通貨であります。これらの通貨に対する急激な円高の進行は売上高や利益の減少等、損益に影響を与えますが、当該リスク軽減のため、当社グループでは外貨建原材料購買の増大や海外拠点で消費する資材の現地調達化を進めております。また、海外における投資資産や負債価値は、財務諸表上で日本円に換算されるため、為替レートの変動の結果、換算差による影響が生じます。米ドル、ユーロ、それぞれの通貨が1円円高となった場合の当社グループの営業利益に対する影響は、おおよそ米ドルで20億円の減益、ユーロは6億円の減益と見ております。為替レートの変動に対応するため、外貨建資金調達及び為替予約契約の締結等の対策は講じておりますが、急激または大幅な為替レートの変動等は、当社グループの財政状況及び業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

(主要な対応策)

 海外子会社と本社(日本)間の取引は原則として現地通貨で行うことで海外子会社の為替変動リスクを低減し、これを本社に集約し日本から包括的に為替予約等を行うことで為替変動リスクを低減することに努めております。海外子会社も必要に応じて為替予約等を活用し為替リスクを低減しております。また営業利益への為替影響額縮小の為、ドル建て購買、円・人民元建て販売取引を推進しております。

 

(3)金利変動によるリスク

 当社グループはその時々において銀行預金や国債等の金融資産及び銀行借入金や社債、リース負債等の負債を保有しております。これらの資産及び負債にかかる金利の変動は受取利息及び支払利息の増減、あるいは金融資産及び金融負債の価値に影響を与え、当社グループの財政状況及び業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

(主要な対応策)

 支払利息の金利上昇リスクに対しては、社債や銀行借入による低利かつ固定金利の資金調達で、金利変動リスクの低減を図っております。受取利息の金利下落リスクに対しては、元本保証を重視し、運用は定期預金を主とし、金利動向を見ながら金利上昇局面では比較的短期の、金利下落局面では比較的長期の運用を行うことでリスクをコントロールしております。

(4)自然災害及び感染症によるリスク

 当社グループは、国内外において多数の製造工場や研究開発施設を有しております。各事業所では、不慮の自然災害や感染症発生等に対する備えとして、防災・防疫対策や電力不足に対する自家発電設備の導入等を施しておりますが、想定を超えた大規模な地震や津波、台風や洪水、火山の噴火等の自然災害やそれに起因する大規模停電、電力不足等によって大きな被害を受ける可能性があります。それらの影響を受け、製造中断、輸送ルート寸断、情報通信インフラの損壊・途絶及び中枢機能の障害もしくは顧客自身に大きな被害が生じた場合など、受注や供給が長期間にわたって滞り、業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

 また、新型コロナウイルスやその他の感染症の感染拡大によって、景気の悪化や、当社事業所の閉鎖もしくはサプライチェーンの混乱が起こった場合などには、業績に大きな影響を及ぼす可能性も考えられます。

(主要な対応策)

 当社グループでは、有事の際に製造拠点が早急に生産を再開できるよう主要事業ごとにBCP(事業継続計画)の策定とBCM(事業継続マネジメント)活動の推進、定着化を進めており、同様に、営業や本社スタッフ機能においてもBCPを策定し、会社全体としての機能が停止しないような備えを有しております。災害発生時のサプライチェーン確保の面では、大規模な災害により業務継続できなくなった場合でも、BCPで定める手順に則り、供給者への支払いや部材の供給継続等の非常時優先業務について代替拠点での継続ができる準備を進めております。

 また、初動対応に関しては、全世界的に、有事の際の被害状況を迅速に把握する目的で、当社グループ海外現地法人と本社間で迅速に情報共有できるシステムを導入しております。

 なお、新型コロナウイルス感染症に関しては、世界的に新型コロナ関連の規制が撤廃や緩和されており、今後は世の中の「ウィズコロナ」の定着とともに、当社グループ各事業所においても通常の感染対策体制を維持するとともに、クラスター発生時においては新型コロナ感染症対策で培った感染予防体制を実行してまいります。

 

(5)国際的な事業活動におけるリスク

 当社グループは、グローバルに事業を展開しており、連結ベースでの海外売上高比率は90%を超えております。

 対象となる多くの市場や、今後経済発展が見込まれる新興国では、不安定な政情、戦争やテロといった国際政治に関わるリスク、為替変動、関税引上げや輸出入制限といった国内政治・経済に起因するリスク、文化や慣習の違いから生ずる労務問題や疾病といった社会的なリスクが、顕在化する可能性があります。また、商習慣の違いにより、取引先との関係構築においても未知のリスクが潜んでいる可能性があります。こうしたリスクが顕在化した場合、生産活動の縮小や停止、販売活動の停滞等を余儀なくされ、業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

 特に当社グループの中国向け売上高は連結売上高の50%を超えております。同国へ進出している得意先及び現地企業への供給体制を確立するため、中国に製造拠点を数多く有しており、その結果、中国拠点による生産額は、当社グループ全体の約59%となっております。

 同国にて上記のような政治的要因(法規制の動向等)、経済的要因(成長の持続性、電力等インフラ整備の状況等)及び社会環境における問題事象が発生した場合、業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

(主要な対応策)

 国際的な事業活動におけるリスクに対しては、本社に設置したガバメントリレーション機能と米州、欧州、中国の各地域本社により各地域のリスク関連情報や各国法規制動向の把握及び分析を行っております。特に、近年の米中関係をはじめとするグローバルな地政学リスクについては、重要リスクと認識し対応を進めております。また、当社グループでは需要地における生産を原則としつつも、生産拠点の配置については、カントリーリスクやその他の要因も考慮し、適宜見直しを行っております。こうした拠点戦略最適化を進める中、中国依存度に関しては、当社グループが中国に保有する有形固定資産は、2023年3月期の4,164億円から2024年3月期には3,812億円へ減少しております。

 ロシアのウクライナ侵攻への対応では、事変発生以来ロシア及びベラルーシでの事業活動凍結を継続しております。

 

(6)企業の社会的責任に関するリスク

 当社グループは、社会の持続可能な発展のために、SDGsを一つの指標として、地球環境への配慮・労働環境の整備・人権の尊重など企業の社会的責任を重要な経営課題と認識しており、サプライチェーンも含むあらゆる事業活動の中で、RBA(Responsible Business Alliance)行動基準に則った自己評価や監査、トレーニングや対話を通じて、課題把握と継続的改善に取り組んでおります。しかしながら、当社グループの努力にもかかわらず、環境汚染、労働災害の発生等の労働安全衛生に係る問題、または児童労働、強制労働や外国人労働者への差別等の人権に係る問題等が生じた場合、当社グループの社会的な信用が低下し、顧客からの取引停止、または一部事業からの撤退等により、業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

 また、関連する様々な法令規則や国際的なイニシアチブ等による規制が大幅に強化された場合等、これに適応するための費用が増大したり、規制の強化や顧客要求に適応できず一部事業からの撤退を余儀なくされたりするなどして、業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

(主要な対応策)

 当社グループの人権問題に対する姿勢としてはTDK企業倫理綱領において人権の尊重にコミットしており、いかなる形の強制労働も明示的に禁止しております。また「TDKグループ人権ポリシー」において人権の尊重に向けた当社のアプローチを明示し、同ポリシーに従いサプライチェーン上の各種調査や監査、ステークホルダーとのコミュニケーション等を実施しております。その過程で企業倫理綱領からの逸脱行為があると判断した場合には、是正に必要な措置を講じます。

 また当社グループは、TDKグループの「重要課題(マテリアリティ)」の一つとして「社会・環境課題解決の遂行」を掲げ、その中のテーマに「人権の尊重」を設定し、グローバルに展開しております。自社製造拠点は本社サステナビリティ推進本部が主管となり、年1回のCSRセルフチェックと労働・企業倫理アセスメント及びCSR内部監査、第三者機関によるCSR監査を拠点ごとに頻度を決めて実施しております。特に児童労働防止への取り組みとして、上記に加え、高リスクエリアに所在する自社製造拠点と委託加工先に対し追加のセルフアセスメントを行っております。また人財本部が主管となって、強制労働抑止につながる労働時間管理の徹底をグローバルに推進しております。
 法令規則・規制の変更や強化に関しては、各国法令、環境法規制、社会情勢及び顧客の動向などに注視し、変化に合わせた迅速な対応を実施できる体制を整えリスク低減を図っております。

(7)気候変動に関するリスク

 地球温暖化の一因とされる温室効果ガスの排出量は増加の一途をたどっており、2015年12月COP21で採択された「パリ協定」に代表されるように、気候変動への危機感は高まってきております。気候変動は当社グループにとって重要な課題であり、2019年5月に賛同を表明したTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言に基づき、環境担当役員が責任者となって気候変動関連情報の開示を進めるとともに、分析と対策を実施しております。気候変動に関するリスクとしては、以下に示すような移行リスクと物理リスクがあり、これらのリスクが現実化した場合には、当社グループの財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。

「移行リスク」(政策及び規制、技術開発、市場動向、市場評価等の変化に起因する間接的損失リスク)

・世界各地での炭素税の導入やその他環境関連法規制の強化による費用の増加

・再生可能エネルギー比率の増大に伴うエネルギー調達コストの増加

「物理リスク」(気候変動がもたらす災害等の直接的損失リスク)

・台風の大型化や突発的な豪雨による想定外の洪水の発生による設備や生産の回復費用の発生

 一方で、当社グループは、再生可能エネルギーの創出に貢献する製品や、最終製品での消費エネルギー削減に貢献する製品を多く製造、販売しており、気候変動リスクに対する社会の関心が高まることは、それら製品の需要の拡大の機会であると考えております。このため、GXを注力する事業領域と位置付けております。

(主要な対応策)

移行リスクについては、「2050年CO2ネットゼロ実現に向けた、エネルギーの有効利用と再生可能エネルギーの利用拡大」をテーマの一つとして掲げ、製造拠点の生産性改善によるエネルギー効率の強化及び再生可能エネルギー利用の拡大を行っております。この中間目標として、2025年度までにグローバルでの再生可能エネルギー導入率を50%にすることを全社目標とし、具体的な取り組みを推進しております。

物理リスクについては、想定を超えた自然災害が発生しやすくなってきており、リスクのさらなる分析を進め特定したリスクについてはBCP(事業継続計画)の一環として対応しております。

 

(8)税務に関するリスク

 当社グループは、世界各国に製造拠点・販売拠点を有しており、グループ会社間の国際取引も多く発生しております。グループ会社間の国際的な取引価格に関しては、適用される各国の移転価格税制や関税法の観点からも適切な取引価格となるよう細心の注意を払っております。しかしながら、税務当局または税関当局との見解の相違等により、取引価格が不適切であるとの指摘を受け追加の税負担が生じる可能性があります。また、世界各国の租税法令ないしその解釈運用の発効、施行、導入及び改廃等により、当社グループに税負担増が生じる可能性があります。

 また、繰延税金資産については、将来の課税所得の見通し及び税務上実現可能と見込まれる利益計画に従い、回収可能性の評価を定期的に行っております。将来において利益計画が実現できない場合、または租税法令ないし税務執行の発効、施行、導入及び改廃等により回収可能性の評価を見直した場合、回収する可能性が高くなくなった部分を減額することにより、法人所得税費用が増加する可能性があります。

 上記のような事態が生じた場合、当社グループの財政状況及び業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

(主要な対応策)

 グループ会社間の国際取引におけるリスクに関しては、四半期ごとに当社グループ内の移転価格モニタリングを行い、リスクが高いと判断されればリスク低減のため方策を講じております。また、商流の変更時や新規取引開始の際にも税務リスク分析を行い、必要に応じて対応を進めております。

 租税法令またはその解釈運用の発効、施行、導入に伴うリスクに関しては、本社と各地域本社の間で情報交換を行い、各国の税制改正の情報を事前に把握し、当社グループへの影響を見極めることに努めております。

(9)技術革新・新製品開発におけるリスク

 当社グループでは、価値ある新製品をタイムリーに世に送り出すことが企業収益向上に貢献し、さらに継続的な新製品開発が企業存続の鍵となるものと確信しております。魅力的で、革新的な新製品の開発による売上高の増加が、企業の成長にとって重要な役割を担っていると考えており、この点を経営戦略の主題として新製品の開発に取り組んでおります。しかしながら、変化の激しいエレクトロニクス業界の将来の需要を的確に予測し、技術革新による魅力的な新製品をタイムリーに開発・供給し続けることができるとは限りません。当社グループの開発部門において実施している市場の動向分析に基づく継続的な研究開発体制の見直しや、開発テーマの選択と集中を進めるための開発マネジメントが有効に機能しない場合等には、販売機会喪失により将来市場はもとより既存市場さえも失うリスクもあります。

 また、当社グループでは、多種多様な製品を世界中の国・地域で開発・生産・販売しており、それら事業活動を通して得たデータは当社の資産と言えます。しかしながら、これらデータを適切に蓄積し、開発・営業・マーケティング部門と連携して魅力的な製品の開発・販売に活用できない場合には、業績及び成長見通しに大きな影響を及ぼす可能性があります。

(主要な対応策)

 新製品開発にあたっては、個々の開発テーマの開始、継続、終了までを関係機能参加のもとデータを活用しながら検討し、新製品の市場性を見極めて製品化を進めております。また、コーポレートマーケティング&インキュベーション本部を中心とした、全社横断体制での的確な市場動向の把握と新製品開発への素早いフィードバックを図り、市場変化への対応を進めております。

 さらに、2019年に設立したTDK Venturesを通じて出資したベンチャー企業との協業により新技術の動向を早期に察知し、技術ロードマップを補強して新たな市場への進出に取り組んでおります。

(10)価格競争に関するリスク

 当社グループは、競争が激化しているエレクトロニクス業界において、スマートフォンに代表されるICT市場、今後一層の電装化が進展する自動車市場、太陽光発電・風力発電等のエネルギー関連市場等多岐にわたる市場で電子部品の展開を行っております。同業界においては、価格による差別化が競争優位を確保する主たる要因の一つであり、有力な日本企業や韓国、台湾及び中国等の海外の企業を交えた価格競争は熾烈を極めております。

 当社グループでは、こうした市場競争に対して継続的なコストダウン施策の推進や収益性向上に努めておりますが、市場からの価格引き下げの圧力はますます強まる傾向にあり、こうした価格動向が業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

(主要な対応策)

 当社グループの各事業において、高付加価値製品の創出により価格競争回避に努めるとともに、コストダウン施策を継続的に実施しております。また、全社的に資本効率及び収益性の向上を図り、価格低下による業績への影響を最小限に留めるよう努めております。

 

(11)原材料等の調達におけるリスク

 当社グループは、原材料等を複数の外部供給者から購入し、適時、適量の確保を前提とした生産体制をとっておりますが、原材料等は代替困難な限られた生産国、供給者に依存する場合があります。例えば、磁気応用製品のマグネットに用いられるジスプロシウム等の重希土類は中国に、エナジー応用製品の二次電池に用いられるコバルトは紛争地域であるコンゴ民主共和国に、その生産を依存しております。これらの原材料等については、複数の調達ルートを確保する他、使用量削減にも取り組んでおります。コバルトを含む紛争地域及び高リスク地域からの鉱物に関しては、「責任ある鉱物調達」に関するポリシーを制定し、持続可能かつ責任ある鉱物だけがサプライチェーンで使われることとなるよう商業上合理的な範囲で最大限の努力をしております。

 しかしながら、各国の輸出入規制や供給者の被災及び事故等による原材料等の供給中断、品質不良等による供給停止、さらに製品需要の増加による供給不足等が発生する可能性があります。また、海外生産拡大に伴う現地調達においては海外の諸情勢に悪影響を受ける場合があり、それらが長期にわたった場合、生産体制に影響を及ぼし、顧客への供給責任を果たせなくなる可能性があります。市場における需給バランスが崩れた場合、原材料価格の高騰や原油をはじめとする燃料価格の高騰による製造コストの増大が想定されます。また、調達した原材料等に、紛争鉱物や児童労働などの問題が潜むことが確認された場合、原材料の変更や調達先の変更などが必要となり、製品の生産や供給に影響を及ぼす可能性があるとともに、社会的な信用が低下する恐れがあります。こうした状況が生じた場合は、業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

(主要な対応策)

 原材料の調達リスク(供給の中断、停止、不足)については随時モニタリングを行い、関連事業部門と共有化する一方、マルチソース化や長期供給契約の締結等によってリスク回避のための対策を進めております。

 現地調達を進めている材料・装置・部材などについては、材料の源流調査の過程で知り得た商社のネットワークを利用して他国の状況把握に努める一方、他国からの調達可能性を調査検討しリスク回避に備えております。

 紛争鉱物については、“責任ある鉱物調達”の枠組みに沿って精錬所調査を行っております。その他、サプライチェーンにおけるCSR遵守状況(人権、環境、安全衛生等)についても定期的に確認しております。

(12)顧客の業績や経営方針転換等に関するリスク

 当社グループは、主にエレクトロニクス市場や自動車市場の顧客に電子部品を供給する企業間取引をグローバルに展開しております。

 多様な顧客と取引を行うと共に、顧客の信用リスク評価を勘案して取引条件を設定する等のリスク低減を図っておりますが、それぞれの顧客の業績及び経営戦略の転換等、当社グループがコントロールし得ない様々な要因によって大きな影響を受ける可能性があります。また、顧客の業績低迷による購買需要の減少や調達方針の変更による納入価格の強い引き下げ要請や、契約の予期せぬ終了等による過剰在庫の発生や収益性の悪化の可能性があります。

国内外での異業種や競合企業による顧客企業のM&Aにより企業再編が行われた場合、注文が著しく減少し、もしくは取引すべてが消滅する等、当社グループの業績に大きな影響を与える可能性もあります。

 なお、2024年3月期において、当社グループの連結売上高の10%を超える顧客グループは1グループあります。この顧客グループに対する売上は、主にエナジー応用製品によるものであり、売上高は3,538億円(当社グループの連結売上高に対する比率は17%)です。

(主要な対応策)

 当社側が当該顧客向け専用の設備投資をする場合に、一定量の製品買取責任を課す契約を締結する等リスクの低減を図っております。

 業界再編の動きについては常に感度高く情報収集に努めるとともに、重要顧客が絡む業界再編の動きに対しては、当社が積極的に再編に関与することを含めた複数のシナリオを想定し、リスクの低減・回避を図っております。

 

(13)コンプライアンスに関するリスク

 当社グループは、事業展開している国内外において、事業や投資関連、電気及び電気製品の安全性関連、国家間の安全保障及び輸出入関連、また、商行為、反トラスト、特許、製造物責任、環境及び税金関連等の、様々な規制の遵守を求められております。当社グループは、GCCO(グローバル・チーフ・コンプライアンス・オフィサー)及び日本のほか世界4地域のRCCO(リージョナル・チーフ・コンプライアンス・オフィサー)を任命し、当社グループ及びそれを構成する役員、従業員が世界共通の規範に基づきコンプライアンスに則した行動をするための体制や仕組みの構築を推進するとともに、企業倫理綱領を定め、誠実で公正、透明な企業風土を醸成するよう努めております。さらに、当社グループが定める社内規程やそれら規程に基づいた手順・プロセスに対しても、当社役員・従業員による遵守を徹底しております。当社グループでは、ガバナンス基本方針である‟Empowerment & Transparency”(権限移譲と透明性の確保)に基づき、各グループ会社がそれぞれの個性を活かせるよう、グループの一員が最低限守るべきルールをまとめた「グローバル共通規程」を整備・運用し、本社部門により遵守状況をモニタリングしております。しかしながら、このような施策を講じても関連する規制や規程への抵触や、役員、従業員による不正行為は完全には回避できない可能性があります。このような事象が発生した場合、当社グループの社会的な信用が低下し、顧客からの取引停止や多額の課徴金・損害賠償の請求等により、業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

 また、将来において、さらなる規制強化が行われる可能性があり、その場合には規制対応のための多額な費用負担や、その規制に適応し得ない場合にはビジネスからの部分的撤退等が必要になるなど、業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

(主要な対応策)

 当社グループでは、コンプライアンスに関するリスク低減とコンプライアンス・カルチャー醸成に向け、以下の活動を実施しております。

 ・当社グループのガバナンス基本方針に基づいた「グローバル共通規程」の策定・運用、および本社部門による

  各グループ会社の遵守状況のモニタリング

 ・外部専門家を活用した社内調査

 ・社長及び各グループ会社責任者からコンプライアンス徹底のメッセージを発出

 ・講義形式及びオンラインによる教育啓蒙の実施

 ・米国司法省の求める基準に基づく社内ルールの策定と運用

(14)製品の品質に関するリスク

 当社グループは、国内外生産拠点において、国際品質マネジメント規格(ISO9001、IATF16949やその他の適用ある規格)や技術革新著しいエレクトロニクス業界の顧客が求める基準に従い、多様な製品の品質マネジメントを行っております。また、独自に保有する品質技術や過去から蓄積する品質トラブルデータを活用し、製品の企画、設計、試作、製造の各段階での設計審査、内部品質監査、購入先監査・指導、工程管理等を通じて製品の信頼性や安全性を確保できるよう、開発上流段階から品質を作り込む品質保証体制の構築を図っている他、各拠点における生産現場での積極的なデジタル活用も推進しております。

 しかしながら、品質上の不具合(規制物質含有を含む)や、それに起因するリコールが発生し得ないとは限りません。当社製品のリコールや製造物責任の追及がなされた場合、回収コストや賠償費用が発生し、また販売量が減少する恐れがあります。さらに当社ブランドを冠した製品の品質上の不具合によりブランドの信用が失墜し、企業としての存続を危うくする事態を招くことも想定されます。このように、重大な品質問題が発生した場合、業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

(主要な対応策)

 当社グループでは、品質不具合(規制物質含有を含む)発生のリスク低減のために、設計、材料、プロセス、管理の視点から、様々な施策を実施しております。

 特にICやソフトウェアを組み込んだ製品が増加していることから、IC解析技術の強化、ソフトウェア脆弱性対策の強化にも取り組んでおります。

 

(15)知的財産におけるリスク

 当社グループは、事業収益に貢献する戦略的知財活動として当社製品の機能、デザイン等に関する特許、ライセンス及び他の知的財産権(以下、「知的財産権」と総称します。)のポートフォリオの管理・取得によるその強化と活用に努めております。

 しかしながら、特定の地域では、その地域固有の事由によって当社グループの知的財産権が完全に保護されない場合があり、第三者が知的財産を無断使用して類似した製品を製造することによって損害を受けることもあり得ます。

 一方では、当社グループの製品・工程等が第三者の知的財産権を侵害しているとの主張を受ける可能性もあります。当社グループがかかる侵害をしたとして第三者から訴えられた場合、訴訟活動や和解交渉が必要になり、そのための費用が発生する他、これらの係争において、当社グループの主張が認められなかった場合には、損害賠償やロイヤリティの支払が必要になることや、市場そのものを失う等の損失が発生する恐れがあります。

 このように、知的財産権についてこれらの問題が発生した場合には、事業展開、業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

(主要な対応策)

 第三者が当社の知的財産を無断使用するケースに関しては、商取引ウェブサイトにおける当社ブランドの不正使用や模倣品販売を監視する仕組みを構築し運用しております。

 一方、当社グループでは他者が所有する知的財産権を尊重することを全社知財方針として掲げ、製品開発においては事前に調査、予防、解決策を講じることによって知的財産権侵害リスクの低減に取り組んでおります。

(16)情報セキュリティにおけるリスク

 当社グループは、事業を展開する上で、顧客及び取引先の機密情報や個人情報及び当社グループ内の技術情報を含む機密情報や個人情報を有しております。これらの情報は、外部流出や破壊、改ざん等が無いように、グループ全体で管理体制を構築し、徹底した管理とITセキュリティ、施設セキュリティの強化、従業員教育等の施策を実行しております。しかしながら、外部からの攻撃や、内部的過失や盗難、役員・従業員の故意的な行動等により、これらの情報の流出、破壊もしくは改ざんまたは情報システムの停止等が生じる可能性があります。

 このような事態が生じた場合には、信用低下、被害を受けた方への損害賠償等の費用の発生、当社グループが取り扱う製品の優位性の低下、または業務の停止等により、業績に影響を及ぼす可能性があります。

(主要な対応策)

 当社グループでは、外部からのサイバー攻撃に備え、情報セキュリティ専門業者による脆弱性診断を実施し不具合があれば改善し、管理面ではNIST(National Institute of Standards and Technology:米国標準技術研究所)のフレームワークに基づき、当社グループ全体で情報セキュリティ体制の強化を推進しております。

 当社グループ内部からの情報流出防止対策としては、機密データのフォルダ単位によるアクセス制限、AIを活用した不審なデータの送受信の検知、USBメモリ・SDカード等持ち出し可能媒体の使用制限や、退職予定者による当社グループの機密情報の持ち出し防止のための施策、従業員への情報セキュリティ教育を徹底しております。また万が一、情報セキュリティ上の被害が発生した場合に備え、迅速に復旧にするための体制をグローバルで強化しております。更には、グループ全体を対象としたサイバー保険に加入しております。また、当社グループ内の取り組みに加え、サプライヤー等の取引先からの情報流出を防ぐため、取引先に対して情報セキュリティ管理の改善支援を行い、サプライチェーン全体の情報セキュリティの管理レベルを向上させる取り組みも実施しております。

 

(17)人財獲得と人財育成に関するリスク

 当社グループは、世界中の30以上の国と地域で事業活動を推進しており、日本以外の拠点の従業員数は全従業員数の約90%となっております。変化の激しいエレクトロニクス業界において継続的に事業を発展させるためには、専門技術に精通した多様な人財及び経営戦略やグローバルな組織運営といったマネジメント能力に優れた人財の獲得、育成を継続的に推進していくことが重要となります。

 しかしながら、必要な人財を継続的に獲得し定着させるための競争は厳しく、日本国内においては、少子高齢化や労働人口の減少等、また、中国等の海外拠点においても、雇用環境の変化が急速に進んでおり、人財獲得や育成が計画通りに進まなかった場合、長期的視点から、事業展開、業績及び成長に大きな影響を及ぼす可能性があります。

(主要な対応策)

 当社グループでは人財獲得のために新卒採用や経験者の通年採用を積極的に展開しております。特に日本においては、様々なタイプの学生や経験者へアプローチする機会を増やすため、新型コロナ感染症が拡大する以前からオンライン面談を採用活動の一環として取り入れていたため、コロナ禍の状況においてもスムーズに採用活動手段の転換ができております。

 また、目標管理制度に基づいた公平な評価・処遇制度の充実などの仕組みの構築により、従業員のエンゲージメントを高め、人財の定着を図っております。さらには、自律型人財やグローバル人財を育成し、当社グループの価値観、知識及びモノづくりのDNAを伝える教育プログラムの充実を図っております。これらの教育プログラムには、現在のグローバルキー人財や将来の経営層候補、その他各階層に対する教育も含まれております。

(18)新規市場・事業参入やM&A等に関するリスク

 当社グループは、競争が激化するエレクトロニクス分野において、持続的な成長を実現するため、既存事業における新規市場(地理的および用途的)の参入や、新事業の参入に積極的に取り組んでおります。また、新規市場・事業参入に必要な技術や顧客資産などの獲得や、事業の競争力強化の上で、有効な手段となる場合はM&Aも積極的に活用しています。

 新規市場・事業参入やM&A等に当たっては、事前に当社グループの事業ポートフォリオとの関連性や、関連する各国の法規制動向、M&Aに伴うリスク分析結果等を十分に考慮し進めるべく努めております。

 しかしながら、事前の調査・検討にもかかわらず、市場や技術並びに法規制動向等の著しい変化等により、当社グループの業績や成長及び事業展開等に大きな影響を及ぼす可能性があります。

(主要な対応策)

 当社グループでは、新規市場・事業参入やM&A等の際には、当社グループの目指すべき姿や成長戦略と整合しているか、また実現可能な事業計画であるか、関連する各国のリーガルリスクの所在やその対応状況などについて、事業部門や本社機能のみならず、必要な場合は外部専門家による検証を行っております。また、M&Aにおいては、買収後統合(PMI)を円滑に進め統合シナジーを最大限発揮するために、実施すべき事項とその達成時期の標準的なターゲットを定めております。

 

(19)非金融資産の減損損失のリスク

 当社グループは、競争が激化しているエレクトロニクス業界での競争優位性を確保及び確立するため、当社の創業時の事業であるフェライトの生産によって獲得した素材技術とプロセス技術を軸としつつ、時には事業の成長加速のためのM&Aも実施し、事業ポートフォリオを充実させて参りました。また、生産能力向上、品質向上または生産性向上などのため製造設備などの設備投資を継続的に行っております。その結果、有形固定資産、使用権資産、のれん及び無形資産などの非金融資産を多額に有しております。多種多彩な事業や資産を持つことはリスク分散に繋がる一方、事業や資産のポートフォリオの効率性を継続的に改善できなかった場合は、当社グループの収益に多大な影響を及ぼす可能性があります。2024年3月31日現在、当社グループの、有形固定資産、使用権資産、のれん及び無形資産の総額は1兆2,879億円であり、そのうち1,154億円はHDD用ヘッド事業の有形固定資産であり、934億円はMEMSセンサ事業、204億円はHDD用ヘッド事業に配分されているのれんです。

 有形固定資産、使用権資産及び特定の識別可能で耐用年数を確定できる無形資産については、期末日ごとに減損の兆候の有無を判断しております。減損の兆候が存在する場合には、当該資産の回収可能価額に基づく減損テストを実施しております。のれん及び耐用年数を確定できない無形資産については、減損の兆候の有無にかかわらず、毎年同じ時期に減損テストを実施しており、さらに減損の兆候が存在する場合は、その都度減損テストを実施しております。

 かかるテストの結果、資産、資金生成単位または資金生成単位グループの帳簿価額が回収可能価額を超過する場合に、その帳簿価額を回収可能価額まで減額し、減損損失を認識します。多額の減損損失を認識した場合、当社グループの財政状況及び業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

(主要な対応策)

 当社グループでは、事業の収益性及び成長性を考慮した事業ポートフォリオ・マネジメントを導入し、選択と集中による投資判断を行い、将来の減損リスク発生を回避するよう努めております。

 また、減損リスクの高い課題事業については、期初よりモニタリングを行い業績改善計画の進捗を確認、該当事業部門と本社部門が連携し事業収益性回復の可能性を検討します。

 

配当政策

3【配当政策】

当社は、中長期的な企業価値の向上を実現することが株主価値の拡大に繋がるとの認識のもと、1株当たり利益の成長を通じて、配当の安定的な増加に努めることを基本方針としております。そのために、エレクトロニクス市場における急速な技術革新に的確に対応すべく、重点分野の新製品や新技術を中心に、成長へ向けた積極的な投資を行うことで、中長期的な企業価値の向上を目指してまいります。したがいまして、当社は実現した利益を事業活動へ積極的に再投資したうえで、連結ベースの親会社所有者帰属持分当期利益率(ROE)や親会社所有者帰属持分配当率(DOE)の水準、事業環境の変化等を総合的に勘案し、配当を行うことといたします。

当社は、期末及び中間の年2回、剰余金の配当を行うことを基本方針としており、それぞれの配当の決定機関は、期末については定時株主総会、中間については取締役会であります。

当社は、「取締役会の決議によって、毎年9月30日を基準日として中間配当をすることができる。」旨を定款に定めております。

なお、当事業年度に係る剰余金の配当は以下のとおりであります。

決議年月日

配当金の総額

(百万円)

1株当たり配当額

(円)

2023年11月1日

22,001

58

取締役会決議

2024年6月21日

22,005

58

株主総会決議