2024年3月期有価証券報告書より

リスク

3【事業等のリスク】

有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が提出会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当事業年度末現在において当社が判断したものであります。

①音声合成業界の動向について

音声合成業界は、古くは、電話の自動応答システムからスタートし、防災行政無線、カーナビゲーション、スマートフォンでの音声対話へと発展してまいりました。本格的に実用化されてからの歴史は浅く、まだ15年程であります。この間、急速に市場が発展しており、また今後新しい市場としては、観光分野、高齢化社会における福祉用途、大阪万博へ向けた外国人向け音声ガイダンス等々、様々な分野での拡がりが期待できます。

また、新型コロナウイルス感染症などの影響によりテレワーク等の働き方改革が進み、eラーニング等の教材における音声合成の利用が進んできております。今後はアフターコロナの動きの中で、観光業でのインバウンド需要がより高まっていくことが期待できます。

一方で、各市場が期待通りに拡大しない場合、当社の事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。具体的には、積極的な営業が困難になることにより、ロイヤリティ、Custom Voice、基本ライセンスといった法人向け製品の売上が伸び悩むと予想しております。

当該リスクの対応策として、eラーニング資料のナレーション作成や、ガイダンス音声の作成といった法人向け製品、コンシューマー向け製品の売上拡大を目的としたWEB広告出稿や独自ブランド「A.I.VOICE®」の販売、定期的にユーチューブ生放送を行い、コンシューマー向け製品の認知度向上を目指してまいります。また、生成系AIを活用したサービス構築や音声認識事業を主とするフュートレックとの経営統合を進めることで、音声周辺技術と連携した新たなマーケットの拡大を目指してまいります。

 

②技術革新による影響について

音声合成業界において、技術革新が進んでおります。当社が2023年10月に発表いたしました音声合成エンジン「AITalk®6」は、音声処理部において従来の「波形接続型音声合成方式」とともに従来の「DNN音声合成方式」からより自然性の向上した「新DNN音声合成方式」を提供しております。現在、当該技術を用いた音声合成製品が各社から出されておりますが、読み上げ品質という点では言語解析が重要となり、読み間違いが少なく自然なアクセントで読めるという点で、現時点では優位性を確保しております。

しかしながら、当社の継続的な研究開発が停滞した場合、投資に対する十分な成果を得られず、当社の事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。

当該リスクの対応策として、名古屋工業大学徳田・南角・橋本研究室との非タスク指向型対話音声合成に関する共同研究及び開発を行ってまいりましたが、一定の成果が得られたことから2023年3月末で終了いたしました。今後は「AITalk®6」の改良及び当社製品・サービスへの展開を進めてまいります。

 

③競合他社による影響について

当社が提供する音声合成エンジン「AITalk®」の主な競合先は、HOYA株式会社(ReadSpeaker)、東芝デジタルソリューションズ株式会社(ToSpeak)となります。また、新興企業による事業参入も増えており、競争環境は激化しております。当社は音声合成に特化して事業を展開しており、研究開発、製品開発、販売、サポートを一気通貫で提供することにより、ユーザーの要望にも迅速かつ柔軟に対応し、シェアを確保しております。

しかしながら、競合他社企業のうち、大手企業は要員を拡充し、事業展開を加速した場合、当社の事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。また、「Google Cloud Platform(GCP)」の「Cloud Text-to-Speech」あるいは「Amazon Web Services(AWS)」の「Amazon Polly」等の大手企業がクラウドサービスプラットフォームの一部として提供している低価格なサービスにおいて、音声合成エンジンの日本語の品質・技術向上が図られた場合、当社の事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。

当該リスクの対応策として、定期的に競合他社の動向を調査し、優位性を維持する体制整備を行ってまいります。

 

④業務提携による影響について

今後、日本語音声合成に加えて、音声認識、意図解釈、翻訳、多言語等と連携した利用が拡大するものと考えております。当社においては、日本語音声合成をコア技術と位置づけ、音声認識、意図解釈、翻訳、多言語等の連携技術については、海外メーカーとの連携や資本提携を含めた他社との業務提携を推進していきます。したがって、他社の状況や各国の知的財産制度、輸出規制等の政策による影響を受ける可能性があり、その結果、当社の事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。

当該リスクの対応策として、業務提携先との友好な関係とコミュニケーションの維持を行うとともに、海外業務提携先に関する各国政策等の情報収集を適宜行ってまいります。

 

⑤企業買収等のリスクについて

当社は、今後の成長に向けた競争力強化のため企業買収等を行っており、また、将来行うことがあります。

当社としては、個々の案件の規模等に応じて、取締役会及び各種の会議体での審議並びに投資先に対するデューデリジェンスを充分に実施することにより、企業買収等の検討を進めるとともに、買収先の資産効率の向上及び利益の最大化に努めてまいります。

なお、買収先企業の業績が買収時の想定を下回る場合、又は事業環境の変化や競合状況等により期待する成果が得られないと判断された場合には、関係会社株式評価損が発生し、当社の業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

 

⑥人材の確保及び育成による影響について

当社は、音声合成という特殊な分野で研究開発、製品開発、販売、サポートを全て自社内で行っておりますが、2024年3月末現在、従業員数56名と少数精鋭で事業を展開しております。特に、研究者、開発者は、育成に時間を要することから、優秀な人材を確保するとともに、人材の流出を防止するための環境構築が重要であると考えております。

しかしながら、IT業界における人材獲得競争が激しく、計画通り人材の採用ができない場合、もしくは優秀な人材が流出してしまった場合、業務運営に支障をきたし、当社の事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。

当該リスクの対応策として、フレックスタイム制度、在宅勤務制度等の働きやすい環境の整備、優秀な人材を確保すべく採用活動を計画的に行ってまいります。

 

⑦内部管理体制について

当社は、企業価値の継続的な向上のためには、コーポレート・ガバナンスが有効に機能することが重要であると認識し、適正な業務分担、財務報告の信頼性、法令遵守を徹底するため、内部管理体制の充実を図ってまいります。

しかしながら、業務の拡大に内部管理体制が追いつかない状況が発生した場合、適切な業務運営が困難となり、当社の事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。

当該リスクの対応策として、管理部門スタッフ、内部監査担当の採用活動を計画的に行ってまいります。

 

⑧取引依存度の高い業界による影響について

本書提出日現在の当社の売上について、防災分野への依存度が大きくなっております。2024年3月度において、売上高に占める割合は10%以上となっており、今後、様々な理由により、同分野での売上高が減少した場合、当社の事業及び業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

当該リスクの対応策として、防災メーカーとの継続的、安定的な関係構築に努めてまいります。

 

⑨取引依存度の高い取引先による影響について

本書提出日現在の当社の売上について、株式会社NTTドコモへの依存度が大きくなっております。2024年3月期において、売上高に占める割合は13.0%となっており、今後、様々な理由により、株式会社NTTドコモとの取引が縮小した場合、当社の事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。

当該リスクの対応策として、上記以外の売上を伸ばしていく営業体制の整備を行ってまいります。

 

⑩大規模災害による影響について

当社では、自然災害、事故等に備え、プログラム等の重要なリソースにつき、定期的にバックアップをとっております。

しかしながら、当社所在地近辺において、大地震等の自然災害が発生し、当社設備の損壊が発生した場合、研究開発及び製品開発が滞り、当社の事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。

当該リスクの対応策として、テレワーク体制の整備を行ってまいります。

 

⑪システム障害による影響について

当社は、クラウドサービス「AICloud®」を提供しており、大手クラウドサービス事業者を利用し、冗長化構成をとり、また、外部へ委託し、24時間365日の有人監視を行うなど、システムの安定的な運用に努めております。

しかしながら、アクセスの集中による負荷の増加、あるいは、地震などの自然災害等、システムに予期せぬ障害が発生した場合、当社の事業及び業績に重要な影響を及ぼす可能性があります。

当該リスクの対応策として、バックアップデータを元に早期復旧する体制の整備を行ってまいります。

 

⑫情報セキュリティによる影響について

当社は、音声合成エンジンをライセンスするにあたり、顧客の機密情報を知りえる立場にあります。「情報セキュリティ基本方針」に基づき、情報の適切な管理に努めておりますが、コンピューターウイルス、不正アクセス等の理由により、これらの機密情報の漏洩や改竄などが発生した場合、顧客企業等から損害賠償請求や当社の信用失墜の事態を招き、当社の事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。

当該リスクの対応策として、「情報セキュリティ基本方針」に基づいた監視体制の整備を行ってまいります。

 

⑬法的規制等について

当社は、メールアドレスを始めとする顧客情報を保有しており、「個人情報の保護に関する法律」の適用を受けております。これらの個人情報につきましては、「個人情報保護方針」に基づき適切に管理するとともに、「個人情報保護規程」を定めており、社内教育の徹底と管理体制の構築を行っております。当社は事業を遂行していくうえで、各種法令及び規制等の適用を受けておりますが、現状においては、当社の事業継続に著しく重要な影響を及ぼす法的規制等はないものと認識しております。

しかしながら、今後予期せぬ法令等の制定、既存の法令等の解釈の変更がなされた場合、当社の事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。

当該リスクの対応策として、法令等の制定、改定を確認し、適宜社内の管理体制を見直してまいります。

 

⑭知的財産権等に関する侵害による影響について

当社は、第三者の知的財産権を侵害していないことの確認を、研究開発部門、製品開発部門が必要に応じて専門家に相談しながら進めておりますが、チェックが十分でない場合、認識不足等、何らかの不備により、第三者の知的財産権等を侵害する可能性があります。第三者からの損害賠償請求、使用差し止め等の訴えを起こされた場合、当社の事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。

当該リスクの対応策として、専門家と連携し、知的財産権等に関する事前調査の徹底を行ってまいります。

 

配当政策

3【配当政策】

当社は株主に対する利益還元と同時に、事業拡大及び競争力の確保を経営の重要課題として位置づけております。当社の配当に関する基本方針は、株主の皆様に対する利益還元を重要な経営課題と認識しつつ、業績の推移、財務状況、事業計画に基づく資金需要等を総合的に勘案し、内部留保とのバランスをとりながら経営成績に合わせた利益配分を基本方針としております。

なお、当社は、剰余金の配当を行う場合には、年1回の剰余金の配当を期末に行うことを基本としており、期末配当の決定機関は株主総会であります。

また、会社法第454条第5項の規定に基づき、取締役会の決議により、毎年9月30日を基準日として中間配当を実施することができる旨を定款に定めております。

当期につきましては、前期から業績の改善が見られましたが、株式会社フュートレックとの経営統合を控え、今後の内部留保のバランスと資金需要等を総合的に勘案し、無配といたしました。