2024年6月期有価証券報告書より

リスク

 

3 【事業等のリスク】

本書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項には、以下のようなものがあります。また、必ずしもそのようなリスク要因に該当しない事項につきましても、投資者の投資判断上、重要であると考えられる事項につきまして、投資者に対する積極的な情報開示の観点から以下のとおり記載しております。

なお、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の開始から4年以上が経過し、この間のワクチン接種の普及、治療薬の開発及び上市、社会全体の感染状況等から、当該感染症が当社の事業に与える影響・リスクは重要ではないと判断し、前事業年度の有価証券報告書に記載していた「(3) 業績・財務及び資本政策等に関するリスク ⑥ 新型コロナウイルス感染拡大による影響について」を削除しています。

また、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものであります。

 

(1) 医療機器の研究開発・医療業界に関するリスク

① 研究開発の不確実性について

当社は治療用アプリ及びプラットフォームシステムの開発を事業領域としており、特に治療用アプリの開発には医薬品と同じく相当程度の時間と投資が必要となります。治療用アプリの開発では臨床試験の結果や、規制当局からの要望・指導、関連する法令の変更・改訂等によって計画に不確実性が生じ、開発方針の変更、開発の延期もしくは中止などを招くことによって当社の長期的な財務状況や経営成績に大きな影響を及ぼす可能性があります。個々の治療用アプリの開発リスクの低減には限界があるため、学術研究機関との連携強化、治療用アプリ開発プラットフォームの活用によって、効率的なシーズ探索を行い、継続的に開発パイプラインの充実を図る方針としております。

 

② 副作用、製造物責任について

通常、医療機器は本来期待する効果と共に、期待されない副作用が生じる可能性があります。治療用アプリに関しては、一般の医薬品や医療機器と同様にその安全性に関して臨床試験の中で十分に検討され、また、侵襲性が低く副作用が発生した場合の深刻度も相対的に高くはありませんが、上市後に、より多く使用される段階で予期できない副作用が発現する可能性は否定できません。

当社は、上記の副作用発生に起因する補償又は賠償に対応するために、想定しうる範囲で治験保険や製造物責任保険への加入を予定しておりますが、補償範囲外の賠償責任を問われる可能性があります。さらに、重篤な副作用や死亡例の発生は、製品及び企業イメージを大きく損ね、製品の回収、製造販売の中止、薬害訴訟の提起、製造物責任賠償等と併せて、当社の長期的な財務状況や経営成績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

 

③ 医薬品医療機器等法その他の規制について

当社が属する医療機器等の業界は研究、開発、製造及び販売のそれぞれの事業活動において、医薬品医療機器等法、薬事行政指導、医療保険制度並びにその他関係法令等により、様々な規制を受けています。当社が開発している治療用アプリは医療機器に該当し、厚生労働大臣による医療機器製造業あるいは医療機器製造販売業の登録が必要となります。この登録は5年ごとの更新が必要となるため、更新が認められない場合には、治療用アプリの開発を継続できなくなる可能性があります。当社では、人員体制の拡充強化、適正な業務フローの実施を継続的に行い、登録更新に必要な要件を満たしていく方針としております。

また、当社が開発した治療用アプリやシステムの使用が規制当局によって承認されない場合、それらの上市や他社へのサービス提供が困難になる可能性があります。さらに、承認を取得できた場合であっても健康保険の対象として保険収載されない、もしくは期待通りの保険点数が付与されない場合、当社の財務状況や経営成績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

 

④ 不眠障害治療用アプリの販売計画について

当社は、これまでに実施した臨床試験等から、不眠障害治療用アプリについては有望な有効性および安全性データが得られていると判断しており、2023年2月にはそれらデータに基づいて製造販売のための承認・許可を取得しております。本書提出日現在、令和6年度診療報酬改定における新しい保険医療材料制度に則って保険収載の手続きを進めるべく、2024年8月に製造販売承認事項一部変更承認を申請しております。

当社の事業計画については、承認後の保険収載を前提として作成しておりますが、上市に至る過程において様々な薬事規制に従う必要があり、仕様の変更や臨床試験の再実施など、事業計画のスケジュールに変更を及ぼす事象が発生した場合には、当社の長期的な財務状況や経営成績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

 

(2) 事業活動に関するリスク

① 小規模組織及び少数の事業推進者への依存について

当社は、本書提出日現在において常勤取締役4名、非常勤取締役3名及び従業員39名の小規模組織であり、現在の内部管理体制はこのような組織規模に応じたものとなっていますが、今後、業容拡大に応じた継続的な管理部門の体制強化により内部管理体制の拡充を図る方針であります。

また、当社の事業活動は、現在の経営陣、事業を推進する各部門の責任者及び少数の研究開発人員に強く依存するところがあります。そのため、常に優秀な人材の確保と育成に努めていますが、人材確保及び育成が順調に進まない場合、もしくは人材の流出が生じた場合には、当社の中期的な事業活動に支障が生じ、財務状況や経営成績に大きな影響を及ぼす可能性があります。当社での人的資本に関する考え方及び取組は、「第2 事業の状況 2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (3)人的資本に関する考え方及び取組」をご参照ください。

 

② 特定人物への依存について

当社の創業者であり代表取締役社長である上野太郎は、当社の経営戦略の決定、研究開発、事業開発及び管理業務の推進において、当社の最高責任者として影響力を有しております。このため当社は上野に過度に依存しない体制を構築すべく、複数の取締役による業務管掌領域の分担をはじめとした経営組織の強化を図っておりますが、上野が何らかの理由により当社の業務を継続することが困難となった場合には、当社の短期的な事業戦略に大きな影響を及ぼす可能性があります。

 

③ 治療用アプリ業界の競争環境について

治療用アプリやそれに類似する医療機器の開発に携わる企業は、我が国ではまだ少ないものの、海外では既に上場している企業もあり、日本の製薬企業が海外の治療用アプリを日本に導入して臨床試験を開始するなど、国内での競争環境は厳しくなりつつあります。当社が開発を進めているパイプラインを対象とした、競合企業との研究・開発、臨床試験、販売等の事業活動での競争結果により、当社の治療用アプリの上市が計画通りに進行しない場合、当社の中期的な財務状況や経営成績に大きな影響を及ぼす可能性があります。当社では、知的財産権の獲得を中心とした参入障壁の構築により、競争優位性を維持していく方針としております。

 

④ 訴訟等について

当社は、本書提出日現在、提起されている訴訟はありませんが、将来、何らかの事由の発生によって訴訟等による請求を受ける可能性を完全には回避できません。こうした事態が生じた場合、当社の長期的な財務状況や経営成績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

 

⑤ 知的財産権

当社では、研究開発をはじめとする事業展開において様々な知的財産権を利用しており、これらは当社所有の権利であるか、あるいは適法に使用許諾を受けた権利であるものと認識しております。

一方で、当社が現在出願している特許が全て成立する保証はなく、さらに、特許が成立した場合でも、当社の研究開発を超える他社の優れた研究開発により、当社の特許に含まれる技術が淘汰される可能性は常に存在しています。当社の特許権の権利範囲に含まれない優れた技術が開発された場合には、当社の長期的な財務状況や経営成績に大きな影響を及ぼす可能性があります。当社では、保有している知的財産の有効活用並びに新たな知的財産権の構築のために、一定規模の研究開発投資を安定的、継続的に実施していく方針としております。

また、当社では他社の特許権の侵害を未然に防止するため、当社として必要と考える特許の調査を実施しており、これまでに、当社の開発パイプラインに関する特許権等の知的財産権について第三者との間で訴訟が発生した事実はありません。しかし、当社のような研究開発型企業にとって知的財産権侵害の問題を完全に回避することは困難であり、第三者との間で知的財産権に関する紛争が生じた場合には、当社の長期的な財務状況や経営成績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

 

⑥ 情報セキュリティについて

当社はシステム障害、セキュリティ侵害等を未然に防止するためにシステムの多重化をはじめとして様々な手段を講じておりますが、ウイルス、権限のないアクセス、自然災害、通信エラーあるいは電気障害などが引き起こす事故が発生する可能性を否定することはできません。システム障害、セキュリティ侵害等が発生した場合、当社が保有する臨床試験における重要な情報等が喪失又は流出する可能性があります。データの喪失あるいは機密情報の流出を招いた場合、データ復旧のために金銭的・時間的に多大な負担を余儀なくされ、特定の開発品の開発スケジュールが遅延することはもとより、損害賠償請求や当社の社会的信用の失墜、取引先企業との提携関係の解消など、当社の中期的な財務状況や経営成績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

 

(3) 業績・財務及び資本政策等に関するリスク

① マイナスの繰越利益剰余金の計上について

当社は、デジタル機器やIoT技術を治療に取り入れた治療用アプリの研究開発を主軸とするベンチャー企業であります。治療用アプリの研究開発には多額の初期投資を要し、その投資資金回収も他産業と比較して相対的に長期に及ぶため、ベンチャー企業が当該事業に取り組む場合は、一般的に期間損益のマイナスが先行する傾向にあります。当社も第2期(2017年6月期)から当事業年度(2024年6月期)については当期純損失を計上しております。

当社は、治療用アプリのシーズ獲得とパイプライン開発を推し進めることにより、将来の利益拡大を目指していますが、将来において計画通りに当期純利益を計上できない可能性があり、その場合には、繰越利益剰余金がプラスとなる時期が著しく遅れる可能性があります。今後は、保有する開発パイプラインの他社への導出やマイルストン収入の獲得など、より早期に収益計上を可能とする方策についても検討していく方針であります。

 

② 剰余金の分配について

当社は、株主への利益還元を重要な経営課題と認識しており、将来的には経営成績及び財政状態を勘案しつつ剰余金の分配を検討する所存でありますが、多額の先行投資を行う研究開発活動の継続的かつ計画的な実施に備えた資金の確保を優先するため、当面は配当等による株主への還元は行わない方針としております。

また「① マイナスの繰越利益剰余金の計上について」に記載したとおり、繰越利益剰余金がプラスとなる時期が著しく遅れた場合、剰余金の分配についても遅れる可能性があります。

 

③ 資金繰りについて

当社は、研究開発型企業として多額かつ長期にわたる研究開発費用の負担が続くため、継続的に営業損失を計上しており、現状では安定的な収益源を十分には有しておりません。

このため、安定的な収益源を確保するまでの期間においては、必要に応じて適切な時期に資金調達等を実施し、財務基盤の強化を図る方針ですが、必要なタイミングで資金を確保できなかった場合は、当社事業の継続に重大な懸念が生じる可能性があります。今後は、他社との共同研究開発体制の構築、保有する開発パイプラインの他社への導出、マイルストン収入の獲得など、多様な資金調達手段を確保していく方針であります。

 

④ 新株発行による資金調達について

当社は医療機器の研究開発型企業であり、将来の研究開発活動の拡大に伴い、増資を中心とした資金調達を機動的に実施していく可能性があります。その場合には、当社の発行済株式数が増加することにより、1株当たりの株式価値が希薄化する可能性があります。

 

⑤ 新株予約権の行使及び株式の追加発行等による株式価値の希薄化について

当社は、当社取締役、監査役、従業員及び社外協力者の業績向上に対する意欲や士気を高め、また優秀な人材を確保する観点から、ストック・オプション制度を採用し、会社法第236条、第238条及び第239条の規定に基づき、取締役会の承認により、当社取締役、監査役、従業員及び社外協力者に対して新株予約権の発行と付与を行っております。今後も優秀な人材の確保のため、同様のインセンティブ・プランを継続する可能性があります。本書提出日現在において、これら新株予約権による潜在株式数は686,500株であり、発行済株式総数16,759,300株の4.1%に相当します。

また当社の取締役に対して、中長期的な企業価値の向上に対するインセンティブとして譲渡制限付株式を付与する制度を導入しており、今後も当該制度による譲渡制限付株式を付与する可能性があります。従って、今後新株予約権が行使された場合や譲渡制限付株式が発行された場合には、当社の1株当たりの株式価値は希薄化する可能性があります。

 

配当政策

 

3 【配当政策】

株主への利益還元については、重要な経営課題と認識しており、将来的には経営成績及び財政状態を勘案しつつ、剰余金の分配を検討する所存でありますが、当面は、多額の先行投資を行う研究開発活動の継続的かつ計画的な実施に備えた資金の確保を優先し、配当は行わない方針であります。

剰余金の配当は6月30日を基準日とする期末配当を基本方針としており、配当の決定機関は株主総会とし、「取締役会の決議によって、毎年12月31日を基準日として中間配当を行うことができる」旨を定款に定めておりましたが、2024年9月27日開催の第9回定時株主総会において、期末配当についても「取締役会の決議により配当ができる」旨の定款変更を行っております。