リスク
3 【事業等のリスク】
DNPグループは、地球環境の持続可能性を高め、健全な社会と経済、快適で心豊かな人々の暮らしを実現していく新しい価値の創出に努めており、それによってDNP自身の持続的な成長を達成していきます。また、その実現に向けて、環境・社会・経済に関するさまざまな課題と、変動要素としてのリスクを正しく認識し、統合的なリスクマネジメントを行う取り組みに注力しています。これら事業環境の変化におけるリスクを、DNP独自の「P&I」(印刷と情報)の強みの進化・深耕によって成長機会への転換を推進しています。
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下の通りです。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在においてDNPグループが判断したものであります。
(1)環境関連のリスク
○あらゆる企業活動の土台となる地球環境の持続可能性に関連する変動要素
・気候変動による自然災害の頻発・激甚化、渇水や洪水等水リスクの高まり
・プラスチック汚染や生物多様性の損失の加速
○地球環境保全に関連した制度や市場動向の変動要素
・気候変動リスクや自然関連情報等の開示の強化、グローバル化
・GHG排出量の規制強化、エネルギー関連施策の見直し、循環経済への移行の加速
・環境負荷削減に資する製品・サービスの市場拡大、技術革新の加速 等
DNPグループは、事業活動と地球環境の共生を絶えず考え、「DNPグループ環境ビジョン2050」に掲げる「脱炭素社会」「循環型社会」「自然共生社会」の実現に向けた取り組みを加速させています。例えば、短期的なリスクである風水害等の大規模な自然災害等への対応としては、製造設備その他の主要施設に防火・耐震・水害対策等を施すとともに、製造拠点や原材料調達先の分散を図り、生産活動の停止や製品供給の混乱を最小化する事業継続計画(BCP)を策定し、その適切なマネジメント(BCM)を推進しています。また、各種保険によるリスク移転も図っており、事業の存続を脅かすような緊急事態が発生したとしても、事業活動が早急に復旧できる強い企業体質を構築しています。しかしながら、甚大な自然災害や感染症の流行など、社会インフラの大規模な損壊や機能低下、生産活動の停止につながるような予想を超える事態が発生した場合は、業績に大きな影響を与える可能性があります。
長期環境ビジョンの達成に向けて、DNPグループは中期目標を設定し、環境負荷の削減を計画的に進めています。しかしながら、GHG排出量削減のさらなる強化や脱石化製品への移行の加速、代替素材への切り替え要請の高まりによる削減目標の引き上げや製品仕様の見直し等によって、事業への影響や追加的措置が必要となる場合があり、企業活動に大きく影響する可能性があります。
またDNPグループの事業は、印刷用紙等の森林資源や鉱物資源等の原材料、製造工程で使用する水やエネルギー等の供給サービス、水質や大気排出、事業所の土地利用等の調整サービスなど、さまざまな形で自然の恩恵を受けています。さらに、グローバルなサプライチェーンの構築など、社会と密接に関係しながら事業活動を展開しています。こうした状況をグループ全体で明確に認識し、環境の持続性を確保しつつ、社会とともに持続的に成長するため、サプライチェーン全体における環境負荷の把握・削減、トレーサビリティの確保を進めています。しかしながら、地球環境の急激な変動や生物多様性の損失の加速などによって、DNPが必要とする自然資本に想定以上の変動がある場合は、企業活動への影響が大きくなります。
国内外では、気候変動への対応や生物多様性の保全などに関する法的規制や国際規範の強化が進み、社会課題の解決に取り組む姿勢を重視して企業価値を判断する傾向がますます強まっています。特にカーボンニュートラルの実現や循環経済への移行は、緊急度と深刻度が増しており、ネイチャーポジティブに向けた各種インフラや事業構造の変革がさらに強く求められています。DNPグループはこうした変化を先取りすることに加え、自ら主体的に変化を起こすことによって、価値創造と基盤強化の両輪で環境課題の解決に取り組みます。また、国際的な開示基準に沿って透明性を有した情報を積極的に開示することにより、ステークホルダーとの対話を進めていきます。
(2)社会関連のリスク
○人的資本と人権に関する変動要素
・少子高齢化や労働力不足、雇用の流動化の加速
・多様な社会で生きる多様な人々の尊厳に関する課題の変化
・あらゆる人が心地よく生きるための諸条件の変化(心身の健康・安全・衛生等)
・サプライチェーン全体における人権リスク対応の重要性の高まり
○健全な社会の構築に向けた制度や市場動向の変動要素
・各国・地域の法制度・政治制度の変更、サプライチェーン上のリスク対応の強化
・地政学的リスク/カントリーリスクの拡大
・文化や制度・ルールの違いによる各種リスクの顕在化
・レピュテーションリスクの増大 等
DNPグループは、「人的資本ポリシー」に基づき、社員の心理的安全性が高く健康で活力ある職場の実現に注力するほか、社員一人ひとりの状況に配慮した働き方を実現し、多様な強みを掛け合わせていく「ダイバーシティ&インクルージョン(多様性と包摂)」の取り組みや、注力事業領域を中心とした人材ポートフォリオに基づく採用・人材配置・リスキリング等を推進しています。しかしながら、国内外の雇用情勢の急激な変化にともない、高い専門性を有する人材や、変化に柔軟に対応しながら業務を遂行できる人材の確保・育成ができない場合など、競争優位性の高い組織体制の構築が難しくなる可能性があります。
近年は特に、海外での事業活動やグローバルに拡大するサプライチェーンに関して、多様な社会的・政治的・経済的変動要素が顕在化しています。世界各地での労働環境の適正化や人権への配慮がますます重要となるなか、「DNPグループ人権方針」に基づく労働環境や人権への配慮などの社会的責任を果たし続けていくことが、企業として長期的に発展していくための重要な基盤となります。それに対して、各国・地域や経済圏における人権デュー・ディリジェンスの重要性の高まりなど、社会関連の法律や規制の予期しない制定や変更、地政学的リスクやカントリーリスクの増大等が起きることによって、DNPグループの国内外の事業活動や原材料調達に支障が生じ、業績に影響を与える可能性があります。
DNPグループは、果たすべき3つの責任として「価値の創造」「誠実な行動」「高い透明性(説明責任)」を掲げており、社員全員に対して企業倫理の浸透・徹底を図っています。すべての企業活動において法令等を守るだけでなく、高い倫理観を持ち、常に公正・公平な態度で、社会の維持・発展に寄与することで、将来にわたって信頼を得るべく努めています。しかしながら昨今、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)の広がりを背景として、企業に対する批判的な評価や評判によって企業のレピュテーションが低下するような事案が国内外で発生する可能性があります。そのため、グローバルレベルでのコーポレート・ガバナンス、コンプライアンス体制を強化するとともに、社員に対する企業倫理の浸透・徹底を図っています。また、国内外のSNSなどのモニタリングを行い、早期のリスク発見と適宜適切な対応に努めています。
(3)経済関連のリスク
○各国・地域とグローバルな市場における経済活動の短期および中長期の変動要素
・ビジネスモデル/技術/製品・サービス等の開発の加速
・デジタルトランスフォーメーション(DX)やグローバルネットワーク等の加速
・各種経済指標の急激な変動(国内外の景気・業界動向・消費意欲・物価・為替・GDP他)
・世界経済の地政学的要因によるバランスの変化や分断化
○経済活動の基盤となる制度や市場動向の変動要素
・資本主義の見直し、バーチャルな経済圏の確立等による金融インフラの変動
・情報インフラ関連の変動(GDPR等各種ルール・規制の強化/緩和、情報セキュリティへの脅威) 等
DNPグループは、特定の業種に偏らない数万社の企業や、自治体・各種団体・生活者等と多様な事業活動を行っています。この強靭で安定的な事業基盤を強みにするとともに、オールDNPの強みの掛け合わせと、社外のパートナーとの連携を推進しながら成長牽引事業・新規事業からなる注力事業領域と長期間安定的にキャッシュを生み出す基盤事業を中心に価値の創出に努めています。また、DXの進展やAI利用が拡大するなか、リアルとデジタルを繋ぐ付加価値の創出やAI革新による事業化のスピードアップなどを進めるとともに、「DNPグループAI倫理方針」を策定し、AIの適切かつ効果的・効率的な利活用を推進し、事業活動・研究開発活動などでの価値創出を加速させていきます。しかしながら、国内外の景気や消費の動向などが想定以上に低迷した場合や、特に新興国での生産や需要の変化が大きい場合など、生産量の減少や単価の下落等によって業績が影響を受ける可能性があります。また、新規のビジネスモデルや技術、製品・サービスの開発において、さらなる競争の激化や変化に対する対応の遅れ、予想を上回る商品サイクルの短期化、市場動向の変化等が業績に影響を与える可能性があります。戦略的な事業・資本提携や企業買収は、事業拡大の迅速化や効果の拡大に有効ですが、提携先・買収先等を取り巻く事業環境が悪化し、当初想定していたような相乗効果が得られない場合、業績に影響を与える可能性があります。
原材料等の調達については、国内外の複数のメーカーから印刷用紙やフィルム材料を購入するなど、安定的な数量の確保と最適な調達価格の維持に努めています。しかしながら、地政学リスクの高まり、石油価格や為替の大幅な変動や新興国での急激な需要の増加、天然資源の枯渇、気候変動の影響、サプライチェーンにおける人権の問題などにより、需給バランスが崩れる懸念もあります。また為替相場については、現地生産化や為替予約などによって変動リスクをヘッジしていますが、これらの状況が急激に変動する場合には、業績に影響を与える可能性があります。
また、事業活動において、世界規模のコンピュータネットワークなど情報システムを活用するなかで、ソフトウェアやハードウェアの不具合のほか、日々巧妙化・高度化するサイバー攻撃によるコンピュータウイルスへの感染、個人情報の漏えいなどの発生リスクが高まっており、更なる自社防御強化が必須です。DNPグループは、個人情報を含む重要情報の保護、つまり情報セキュリティを経営の最重要課題のひとつとして捉え、体制の強化や社員教育などを通じてシステムとデータの保守・管理に万全を尽くしていますが、万一、DNPグループのサプライヤーやパートナーにおいてサイバー攻撃による被害や重要情報に関連する事故などが発生した場合には、事業の停止等事業活動に影響を与える可能性があります。
事業活動において自社が保有する知的財産やノウハウ等を適切に保護、管理、活用することが不可欠です。DNPグループでは、自らの技術・ノウハウ等の流出を防止するための管理を厳重に行っていますが、不測の事態による外部流出の可能性があります。一方で他者の知的財産を必要とする事業や製品開発において当該知的財産を利用できない場合、事業拡大や業績に影響を与える可能性があります。また、他者の知的財産権を尊重し、侵害しないよう対応していますが、他者から訴訟等を提起され、差止請求や損害賠償請求を受ける可能性があります。
配当政策
3 【配当政策】
当社は、利益の配分については、株主の皆様へ安定的かつ継続的に行うことを基本とし、中長期の経営視点から、財務基盤の安定性を維持した上で、成長事業への投資と株主還元のバランスを考慮した上で、業績と配当性向などを総合的に勘案して実行していきます。また、将来の事業展開に備えて、適切な内部留保を確保し、経営基盤の強化を図ります。
内部留保資金につきましては、資金需要や市場動向をみながら、今後の新製品・新サービス・新技術の開発投資、新規事業展開のための設備投資、戦略的提携やM&A、それらを支える人材への投資などに充当していきます。こうした施策は将来にわたる利益の増大に寄与し、株主の皆様への利益還元に寄与するものと考えております。
この方針に基づき、当期の配当金については、期末配当金を1株当たり32円とし、中間配当金(1株当たり32円)とあわせて、年間配当金は64円となりました。
当社は会社法第454条第5項に定める中間配当をすることができる旨を定款に定めており、中間配当と期末配当との年2回の剰余金の配当を行っております。剰余金の配当の決定機関は、中間配当については取締役会、期末配当については株主総会であります。
なお、当事業年度に係る剰余金の配当は以下のとおりであります。