2024年3月期有価証券報告書より

リスク

3【事業等のリスク】

 有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況に関する事項のうち、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある主要なリスク及びその対応状況について、以下に記載いたします。
 当社グループでは、こうしたリスクの可能性を認識した上で、発生を回避し、または、発生した場合の影響を抑制する観点から、現状想定し得るリスクを洗い出し評価した上で、事業運営上のリスクについては経営会議にて、また、コンプライアンス上のリスクについてはコンプライアンス・リスクマネジメント委員会において、サステナビリティに関するリスクについてはサステナビリティ委員会においても、それぞれ優先順位に応じて具体的な対策を講じ、定期的にその妥当性について協議・検討を図っております。

 なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書の提出日現在において当社グループが判断したものであります。

(1)自然災害などの不可抗力や外部からの攻撃によるリスク

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)はワクチンの普及もあり収束に目途が付いてきましたが、オミクロン株と大きく病原性が異なる変異株の出現など、新たな感染症の拡大によって、再度、経済活動の自粛を求められることも想定しなければなりません。国内外の工場内での感染発生による製造ライン停止やサプライチェーンの寸断によって、お客様に製品が供給できないリスクを認識しています。また、従業員のほか、お客様や協力会社などの生命・健康を脅かす虞もあります。さらに、工場休業に伴う補償や操業度悪化が損益や資金繰りに与える影響も生じます。

 激甚化する気象災害など気候変動リスクがクローズアップされ、脱炭素社会の実現に向けた取り組みが世界的に加速しています。炭素税導入による調達・操業コストの増加や内燃機関車用部品材料の需要減少などのリスクへの対策の準備が必要となっています。また、当社グループの提供する素材は、お客様の製品を通じてグローバルに提供されることとなるため、世界各地における環境関連法令の適用に対応することが求められます。地球温暖化防止など、環境規制は厳格化の傾向にあり、ひいては当社グループの製造コストを増加させるリスクがあると認識しております。

 当社グループは、気候変動などの地球環境問題への配慮、人権の尊重、健康経営、公正な取引、事業継続マネジメント(BCM)などサステナビリティ課題を重要な経営課題であると認識し、これら課題への取り組みを組織的に推進するため、代表取締役社長を委員長とする「サステナビリティ委員会」を設置し、サステナビリティ担当役員を選任いたしました。同委員会の場でサステナビリティに関する諸課題への取り組み報告や議論を継続的に取り組むガバナンス体制を整備しました。特に、地球環境の保護に対する事業活動の取り組みとしては、『中期経営計画(NSG26)』において事業活動に伴うCO2排出削減の目標を設定し持続可能な社会の実現を目指してまいります。また、当社グループの製品は、エネルギー効率の向上、各種のフィルター機能の提供や水素社会の基盤技術の開発など、高機能・独自製品を通じてサステナブル社会への貢献を図ってまいります。また、「日本精線グループ人権方針」や「日本精線グループ贈収賄防止方針」を制定し社内教育やモニタリングなどを継続的に実施し、当社グループのみならずサプライチェーンを通じてサステナビリティ課題に取り組んでいます。

 南海トラフの巨大地震や当社事業拠点周辺の断層による直下型地震リスクがあり、海外拠点においても当該地毎に大規模災害等のリスクが存在しています。当社グループの生産拠点において大規模災害やテロなどが発生した場合には、生産設備の破損やサプライチェーンの機能停止に伴い操業停止や資産価値の減損を強いられる虞があります。当社グループでは、人命最優先を基本方針としています。安否確認システムやマニュアル整備などの事業継続計画(BCP)については、コロナ禍を教訓に見直しを図るとともに、万が一の際に事業継続計画書が実効的に機能するように日頃からの安全在庫の管理・運用を徹底するとともに、復旧のボトルネックと必要な事前対策をリストアップし、耐震補強・浸水対策や受配電設備等の整備、ITシステムの運用見直しを計画的に推進してまいります。また、地震発生などの際に、誤操作・誤動作による障害が発生した場合にも制御できるように設備のフェイルセーフ化も進めています。事業継続マネジメント(BCM)の取り組み方針・施策の決定や拠点の活動確認などについては、年2回経営会議に報告する体制を整備しました。

 さらに、当社グループでは、製造ノウハウや顧客情報、各種設計図など生産・営業・開発に関して多くの営業的な秘密を保有しています。また、従業員やお客様に関する個人データを保有していますが、一般消費者との取引がないため、データ量は限定的となります。コンピュータウィルスや不正アクセスなど社外からのサーバー攻撃によって、情報が流出し、第三者がこれを不正に取得・使用するような事態が生じると、お客様からの信用力や製品競争力など、当社グループの事業基盤を脅かす虞が認められます。さらに損害賠償責任を負う可能性も含め財務上のリスクもあります。こうしたリスクを抑制するために、従業員へのセキュリティポリシーの徹底や、常に最新のセキュリティ技術を用いた未然防止策を図るとともに、日々のセキュリティログのチェックで被害拡大回避に努めております。

 

(2)外部環境変化に伴うリスク

 当社グループの付加価値の源泉である高機能・独自製品については、その一部のアイテムの販売先が、自動車、エネルギー、IT・半導体、化学製品など先端技術分野の産業・業種に依存する構造となっています。そのため、その業界に属するお客様の需給環境や投資計画、流通在庫の多寡によって、当社グループの受注環境が変動するリスクがあります。

 また、グローバル化しているお客様においては、その販売先のカントリーリスクが間接的に当社グループの受注環境に影響を与えています。またコロナ対応で傷んだ各国の財政問題、米中貿易摩擦の長期化や中東の地政学的リスクが顕在化すると、当社グループの受注減少につながるリスクを認識しています。例えば、半導体関連の禁輸・制裁問題が超精密ガスフィルター(NASclean®)の販売減を引き起こす虞なども想定しています。同様に、為替水準の変動は、お客様の製品・サービスの価格競争力を押し下げる効果があるため、為替リスクも間接的に当社の受注環境に影響いたします。なお、当社グループにおける外貨建て取引は僅少であり直接的な為替リスクは大きくありません。

 このような外部環境の変化による受注・販売の減少リスクに対しては、多能工化などフレキシブルな生産体制で固定費抑制を図るほか、多様な業種・業界のお客様に提供できる製品ポートフォリオの充実によって受注変動リスクの分散を図っています。

 一方、当社グループの材料調達については、主力のステンレス鋼線部門の原材料は主成分であるニッケルやクロムなどのレアメタル相場の影響を受けます。原産国のカントリーリスクの発現などによりレアメタルの需給がひっ迫すると国際市況価格が高騰し当社の調達コストも増加しますが、為替変動リスクも含めた原材料の価格変動に連動してステンレス鋼線の販売価格を変更したり、契約に基づくサーチャージ制度により、原材料変動リスクの影響は限定的となります。ただし、ニッケル価格が極端に高騰すると、お客様が安価な代替品へ移行するリスクを認識しています。同様に、異業種企業や技術革新等により、当社グループのステンレス鋼線や金属繊維製品を代替するような素材や構造などが開発されるリスクもあります。当社グループでは、技術交流会や展示会などを通じて、お客様やマーケットのニーズの変化を的確に捕捉し、タイムリーに新製品の市場投入や品質改善活動に努めています。また、材料調達の大部分を一部の国内大手メーカーに依存しています。主要材料については調達できないというリスクは限定的ですが、メーカー指定の独自鋼種の材料調達に関しては、当該メーカーの生産停止などにより影響を受ける虞があります。

 

(3)安全・健康、品質やヒューマンエラーなどによるリスク

 当社グループにおいては、1トンに及ぶ重量物を取り扱うことや伸線機などの回転する危険な設備があることのほか、健康被害をもたらす特定化学物質の取扱い工程があるため、従業員の安全と健康を脅かす労働災害のリスクがあります。当社グループでは、安全と健康が幸せの原点と捉え、作業者による誤操作・誤動作による障害が発生した場合にも制御できるように設備のフェイルセーフ化を継続的に投資するとともに、人間ドックの費用補助や健康維持向上活動に積極的な支援を行い、働きやすい職場環境づくりに努めています。その結果、4年連続して「健康経営優良法人」に認定されています。

 また、当社製品は、半導体製造装置・医療・自動車関連などの素材として利用されています。そのため、当社製品の欠陥に起因して、重大事故が起きたり、ユーザーの生命・健康に害を及ぼすリスクがあり、当社グループには損害賠償を求められる虞を認識しています。損害保険加入などの対策のほか、異材や疵などの不適合製品の流出防止に向け、品質関連の教育を徹底するとともに、誤入力や識別異常の防止など検査工程のシステム化投資を継続的に実施しています。また、検査データの不正や改ざんによって、お客様や社会からの信頼を失墜し、当社の事業基盤を失うリスクについても重く捉えています。当社グループでは、検査データ不正防止に向け、測定データの自動取込みシステムを導入するとともに、規格外や仕様登録のない材料や製品を取り扱うことのできない仕組みを運用しています

 そのほか、(1)自然災害などの不可抗力や外部からの攻撃によるリスクで記述したとおり、当社グループでは生産、営業、開発などに関して多くの営業的な秘密や個人データを保有しています。過失などによって情報漏洩するリスクがあり、その影響は不正アクセスによる漏洩と同様と認識しています。当社グループでは、機密情報へのアクセスを制限したり、ソフトウェアなどで外部データ持ち出しを防止するほか、定期的にIT監査を通じて牽制を図っています。また、外部メールの運用ルールや重要情報の公開時の手続きの明確化にも努めています。

 

配当政策

3【配当政策】

 当社の利益配分は、連結業績や財政状態などを総合的に勘案し、連結配当性向40%程度を目途に配当を行うことを基本とし、あわせて厳しい経済環境に耐え得る企業体質の強化と今後の事業展開に備えるための内部留保の充実などを勘案して決定することを方針としております。

 当社は、「取締役会の決議により、毎年9月30日を基準日として、中間配当を行うことができる。」旨を定款に定めており、中間配当と期末配当の年2回の剰余金の配当を行うことを基本方針としております。これらの剰余金の配当の決定機関は、期末配当については株主総会、中間配当については取締役会であります。

 当事業年度の配当につきましては、上記方針に基づき、1株につき210円(うち中間配当105円)とすることを決定いたしました。この結果、当期の連結配当性向は49.7%となりました。

 内部留保資金につきましては、将来の成長戦略に必要な設備投資及び研究開発活動や新たな事業展開など「さらなる企業価値の向上」を図るための資金に活用したいと考えております。

 なお、当社は2027年3月期を最終年度とする「中期経営計画(NSG26)」を新たに策定するにあたり、2024年度(2025年3月期)より、株主還元の考え方を連結配当性向50%程度を目途に還元することにしております。

 当事業年度に係る剰余金の配当は以下のとおりであります。

決議年月日

配当金の総額

(百万円)

1株当たり配当額

(円)

2023年10月27日

649

105

取締役会決議

2024年6月27日

649

105

定時株主総会決議